第27章 わが情(こころ) 焼くもわれなり 愛(は)しきやし✓
「わからないって…なんで、決め付けるの」
血に染まる下唇を噛み締めて。
緋色の瞳は、見下ろす双眸を睨み上げた。
「わからないなんて、言ってない。柚霧は、蛍じゃなくなっても魂は変わらず"ここ"にあるって言った。杏寿郎の好いてくれている自分じゃなくなっても、杏寿郎のことを諦めないって言った。憶えて、ないの」
頭の切れる杏寿郎が、憶えていないはずがない。
だから疑問符で呼びかけなかった。
「わからないって言うなら、テンジのことは? あの子の生き続けることで広げていた傷を、痛みを、杏寿郎も感じたでしょ…あの子を救うには、頸を斬るしかなかった。そう説き伏せる方法が、あの時はあれしか思いつかなかった。杏寿郎には、あれ以上の他の方法があったの?」
「……」
「あれしかないと思ったから、杏寿郎も手伝ってくれたんじゃないの」
杏寿郎とは違い、小さな声で紡ぐ蛍の意思。
主張は小さくとも曲げないその意思に、杏寿郎は真一文字に唇を結んだ。
あれ以上の方法を見つけられたと言えば嘘だ。
あの時はあの道しかないと悟ってしまったから、身を切る思いで日輪刀を握った。
「私は、鬼だから。人を信じられなくなるくらい憎む気持ちも、殺したくなるくらい恨む思いも、わかる。あの子達が抱えたものを、一つだって否定できない。見て見ぬフリも、できない。だから、ああしたの。…杏寿郎が、己の身を裂いてでも人々を救おうとすることと、同じだよ」
「…俺は──」
身を裂いても、己が失くなる訳ではない。
〝煉獄杏寿郎〟という人間を殺すことになったとしても、果たして蛍と同じようにその身を捧げることができるのか。
(…わからない)
その時にならなければ、答えなど出ないものだと思った。
そんな最悪の出来事、考えたくもない。
蛍ならわかるのだろうか。
今此処で、未来への予想だけで「こうできる」と己の行動を確固たる思いで口にすることができるのだろうか。
『君は、喉が枯れ果て胃が砂地になるような、耐え難い空腹を知っているのかい。声にもならない、言葉にも出せない陽に皮膚を炙られ焼かれる痛みは?』
言い淀む杏寿郎の脳裏に、冷たい声で問う童磨の台詞が過った。