第27章 わが情(こころ) 焼くもわれなり 愛(は)しきやし✓
『口先ではどんなに蛍ちゃんを思いやれても、鬼としての感覚を共有することはできないだろう』
ぎり、と奥歯を噛み締める。
名を失った蛍を前にして、都合がいいと利用できた童磨のことだ。
今この場での疑問にもきっと、あれがテンジを斬るのに最適だったと蛍の行動を称賛するだろう。
自分はそうだと言いきれない。
だが童磨だと理解に至る。
その事実が、杏寿郎の心の奥底にドス黒い思いを滲み出させた。
「自分は鬼だから…人とは理解が違うと、そう言うのか」
「?…そんなこと、言ってない」
『君達の吐く理想なんて、それこそただの綺麗事だ。〝蛍ちゃん(おに)〟とは一生交わらないものだよ』
自分にとっては当然の感覚でも、鬼である蛍や童磨には当然ではないのかもしれない。
その逆もまた然り。
そもそも人間を馳走と感じられる時点で、持ち得る感覚は人とは天と地程に違うのだ。
それが〝鬼〟という生き物。
目の前にいる蛍もまた、人の血により酔いしれ我を失う。
重々理解していたはずなのに、思い知らされた気がした。
「テンジの心に加担するならば…俺より、鬼であるあの少年を取ると、そう言うのか」
「っ…だから、そんなこと言ってない」
「言っているも道理だ。あの時、君が見ていたのはテンジだけだ。俺の抱えた想いなど一欠片も気にしていない」
「そんなこと…っ大体、そういう話じゃないでしょっ?」
一向に耳を貸さない杏寿郎に、蛍の声にも荒さが滲む。
「どうすればテンジを救うことができるのか。あの時は、お互いにその思いで動いてたはず。私がテンジを取るか杏寿郎を取るか、そんなこと持ち出すことじゃないっ」
「それでも俺がそう感じたことは事実だ」
「だから…ッだったらあの場でそう言えばよかったでしょ…!?」
「言えると思うのかッ? テンジしか見ていなかった君に!」
「だったら今更持ち出さないでよ!」
「君が言い出したことだ! 俺が見えないと! だから俺も俺の抱えていた疑問を主張した! 君自身は俺を見ていたか!?」
「見てるよ! ずっと!!」
「いいや見ていなかった!!」
互いに荒立つ主張が激しくぶつかり合う。