第27章 わが情(こころ) 焼くもわれなり 愛(は)しきやし✓
「もう、酔いたく…ない…杏寿ろ、が…見えアッ!」
「可笑しくなるのも、俺に酔うのも、構わないと言っている。寧ろ大歓迎だ」
「はッやァ…! 待っ…ァあ!」
ぱん!と肌と肌がぶつかる音が室内に響く。
先程の蜜奥だけを狙った責めとは違い、激しく律動を繰り返されて敷布団に額を擦り付けたまま、蛍は抵抗も虚しく喘いだ。
酔いしれ可笑しくなるだけではない。
杏寿郎が見えないのだ。
そう伝えたくても、次々と打ち込まれる熱に嬌声が言葉を掻き消してしまう。
「あぁッひッう…! きょッ…ろ…!」
それでも必死に声を繋いだ。
身を捩り、頸を捻り、見下ろす熱い双眸と視線を交わす。
「わた…ッあ…! 声、きぃ、て…! うあ…ッ!」
「声…? 君の?」
「こ、なの…や…! 杏じゅ…っ見えな…!」
「俺には君が見えている。目の前にいる。そこになんの問題がある…っ」
「ちが…ッあン…!」
ぱん、ぱん、と肌がぶつかる合間に響く、蛍の嬌声と叫び。
辿々しくも、受け答える杏寿郎には声が届いている。
ならば。
「ッ…!」
歯を食い縛り唇に強く牙を立てると、じわりと赤い血が滲む。
痛みで一瞬冴えた頭に、蛍は気を奮い立たせた。
「ここ、ろ! 見えないの…! 杏寿郎、の!」
凛と響くようなその声に、一瞬杏寿郎の律動が止まる。
それは本当に、一秒にも満たない一瞬の出来事だった。
刹那。
「君だって捨てようとしただろうッ!!!」
空気を裂くような、杏寿郎の怒号が響き渡った。
「話を聞かなかったのは君もだろう…! 俺を見なかったのは君だ!!」
体は繋がったままだが、それ以上の揺さぶりはない。
それでも杏寿郎の鋭い怒りの声は、蛍の心を強く揺さぶった。