第3章 浮世にふたり
人?
でも私は、人じゃない。
そう見えたとしても、思い過ごしでしかない。
「私は…鬼、だ」
「知っている。だから此処へ連れてきた。野放しにしていれば、いずれその身は堕ちる」
それは、どういう意味だろう。
問い掛けようとすれば、再び背を向けた冨岡義勇は振り返らなかった。
去る姿を止めることはできず、再び檻の中にひとり。
静寂が戻ってくる。
元より言葉が少ない彼の云うことは、時々わからない。
姉さんのように優しく温かい空気はない。
けれど男達のように私を卑下してもいない。
もし都合の良い解釈が許されるなら…それはまだ、私にほんの少しでも希望を見出してくれたということだろうか。
ただ殺すに値しない存在だと、悪い意味で諦められたのかもしれない。
鬼への毒の研究や他の利用価値に使えると、そんな理由で連れて来られたのかもしれない。
それでも、まだ視ていたいと思った。
浮世の中で、ただひとつだけ曇りのないその色を。