第27章 わが情(こころ) 焼くもわれなり 愛(は)しきやし

　言いようのない感覚だった。
　甘いと言っても、肌を震わす程の痺れだ。
　上手く膝立ちしていられず、くたりと力なく座り込む。


「はぁ…ッは…ッは…ッ」


　息が上がる。
　何かを求めるように赤く染まった舌を突き出し、声にならない音で喘いだ。

　枯渇しているのだ。
　喉も、体も、心もまた。


（欲しい…っもっと、）


　足りないと騒ぐ。
　欲しいと呻る。


「どうだ、蛍。不死川の稀血だけを飲んだ時と、何が違う？」

「……ぁ…」


　ふ、と影がかかる。
　伺うように覗き込んでくる杏寿郎の姿に、ようやく自分が一人ではなかったことに気付いた。


「っ…じゅ、ろ…」

「うむ。俺のことは認識できているようだな。だがいつもより顔の高揚も、発汗も、息切れも群を抜いて高い。やはり効果は違うものなのか」

「きょ…じゅ、ろ…」

「大丈夫だ。聞こえている」

「っ…」


　そうではない。
　そう言いたいのに、上手く言葉にならない。

　目の前のよくよく知る彼の名を紡ぐだけで精一杯で、蛍は切なげに眉を寄せ唇を噛み締めた。
　強く噛み締めた牙が薄い粘膜に喰い込み、じわりと口内に血の味が広がる。


「っ噛み締め過ぎるな。血が」

「たり、ない」

「…蛍？」

「こんな、じゃ…体が…」


　ドクドクと体中を、細胞の中を、滾り回る熱に侵される。
　後ろ手に縛られている体制では、上手く体を支えることもできない。
　ふらりと倒れ掛かる蛍の上半身を、咄嗟に太い腕が支えた。


「ん、はッ」


　支えられ、布が擦れ、肌が触れる。
　ただそれだけだと言うのに、疼く熱を搔き乱されたような感覚だった。
　杏寿郎の腕の中で、びくりと熱い体が跳ねる。


「蛍…？　どうした、苦しいのか？」

「ぁ…あ、」

「血が足りないのか。与え過ぎたか？」

「や…っは、」

「言ってくれ」


　心配そうに投げかけてくる杏寿郎の声が、遠くに聞こえる。
　それよりも労わるように、また確かめるように抱きしめてくるその腕の感触が、辛いのだ。


「っ…さ…」

「？」

「さわ、らな…で…」


　ひゅ、ひゅ、とか細い息を零しながら、どうにか蛍が紡いだ言葉に、金輪の双眸が見開いた。


「体…おかし…なる、」