第27章 わが情(こころ) 焼くもわれなり 愛(は)しきやし✓
丁寧に畳んだ瑠火の着物を、汚れないようにと物置の中にしまう。
「着替えたよ」
「うむ。体調はどうだ」
「特に…。お腹は、空いてるけど。我慢できない程じゃない」
「良好なようだな。稀血摂取による経過を見るには丁度いいようだ」
「うん」
渡された白い浴衣に身を包み、衝立障子の裏から顔を出す。
さくさくと準備を進める杏寿郎の前で正座をすると、緊張は残るが蛍もしかと頷いた。
杏寿郎が自分の意見を汲み取ってくれたのは確かだ。
ならば自分も意欲を示さねば。
「稀血って、不死川の?」
「ああ。それともう一つ」
「もう…一つ?」
「別の稀血も用意した」
向かい合って座る杏寿郎が、懐から透明な硝子の小瓶を取り出す。
小さな薬瓶のようなものだが、中に入っているのは赤黒い液体だ。
言葉の通り、小瓶は二つある。
「別の稀血って? 不死川以外にも稀血の人間がいるの?」
「ああ。この駒澤村にも一人いる」
「へぇ…そうなんだ」
「静子殿だ」
「え!? あの静子さんっ?」
伊武静子。
藤の家との繋がりを持つ、鬼殺隊を支える一族の一人だ。
厳しい言動を持ちながらも、娘である八重美を強く思う母の顔も持つ。
まさかあの静子が。
意外な答えに、蛍は驚きを隠せない。
「今回のことを話して、協力を仰いだ。八重美さんの説得もあって、比較的快く血を提供してくれたんだ。感謝するように」
「…うん…」
あの静子が、と再び心の内で驚く。
それと同時に、じんわりと熱い思いに包まれた。
相手は鬼の恐ろしさを知っている人間だ。
それでも己の血を提供してくれる程に、理解を示そうとしてくれたのか。
「お礼、直接言いに行きたい。今度、静子さんに」
噛み締めるように告げる。
「そうだな。後日、伝えに行こう」
「手土産、持っていかなきゃ。つまらなくないもの」
「ああ、そうだった」
静子に手土産で喝を入れられたことを思い出したのか。杏寿郎の顔が柔み、ふくりと笑う。
昼間杏寿郎が外出したのは、静子の下へと足を運ぶ為だったのだ。
腑に落ちると同時に、すっと心が軽くなる。
変に勘繰ってしまった自分が恥ずかしいと思った。