第27章 わが情(こころ) 焼くもわれなり 愛(は)しきやし✓
部屋は、小ぢんまりとしたものだった。
小さな窓に、物置用の棚が一つ。
店員が言っていた寝具が、部屋の隅に畳んで置かれている。
しかし部屋全体をすぐに把握することはできなかった。
襖を開けた先には、衝立障子(ついたてしょうじ)が置かれていたからだ。
目的は部屋を区切る為に使用するものだが、こんなにも小さな部屋には本来必要ないものである。
「…ぁ」
それが何故置かれてあるのか。見てすぐ悟ったというより、見知った景色に蛍は思わず足を止めた。
知っている。
この小さな部屋を。
柚霧としての時間の大半を過ごしていた、あの部屋と似ているのだ。
煤けた風鈴を飾った、真っ赤な布団の敷かれたあの部屋と。
「ここ…そういう…?」
息を呑むように問いかける。
襖を開けて踏み込んだ杏寿郎が、ああ、と振り返った。
「やはり知っていたのか」
その応えが決定打だった。
知っているだろうと思われたのは、色事関係だからか。
あっさりと告げられた言葉に妙な距離感を覚えて、蛍は何も返せなかった。
ただ静かに戸惑い、杏寿郎を見返す。
「なんで、こんな所」
「何故、という程のことでもない。誰にも邪魔されない借り部屋が必要だった。それだけだ」
「…杏寿郎の精は要らないって、言った、よ」
ぴくりと、杏寿郎のこめかみが微かに力を込める。
呼吸を正すようにふぅと息を吐くと、杏寿郎は衝立障子をずらし部屋の奥へと踏み込んだ。
「知っている。此処で行うのは稀血の提供だ。此処なら多少汚しても、文句は言われないからな」
「……」
「着替えもある。その着物を汚してしまうのは、蛍も本意ではないだろう。念の為、これに着替えるといい」
用意されていた二組の寝間着。
白い浴衣を差し出す杏寿郎に、蛍は奥歯を噛み締め言葉を呑み込んだ。
確かに、杏寿郎の意見は理に適っている。
「お客様、お皿をお持ちしま…どうされました?」
「い、いえっ」
そこへ皿を手に店員が戻ってくるものだから、つい逃げるように蛍は目の前の部屋に踏み入れた。