第27章 わが情(こころ) 焼くもわれなり 愛(は)しきやし
「二つの稀血ね…よし、いいよ。全部飲む」
うんと頷き、姿勢を正す。
やる気に満ちた蛍の表情に、杏寿郎もまた強い笑みを浮かべた。
「その意気だ。ではまず」
「はいっ」
「腕を出してもらおう!」
「…はい?」
それも束の間。
威勢よく返された斜め方向の返答に、思わず顔も斜めへと傾いてしまう。
「腕?」
「うむ! 蛍は稀血に耐え得る訓練をしたいと言ったな。だからこそそれ相応のものを用意した。暴れないとも限らない。念の為だ」
「…どこからそんな物…」
「此処に置いてあった!」
「思いっきりそっち用でしょそれ…!」
「作りはしっかりしている。使えるぞ」
いつの間にそんな物を手にしていたのか。
太く編み込みされたロープを手に笑う杏寿郎に、思わず蛍も突っ込みを入れてしまう。
それでも杏寿郎の姿勢は変わらない。
「とにかく腕だ。出さないなら俺からするぞ」
「えっいや、あの…え、どうするの?」
「蛍は動かなくていい。両腕を背に回してくれ」
「…本当に?」
「俺は真剣だが? これは訓練なのだろう?」
「……」
蛍の背後を取った杏寿郎が、腕を出せと急かす。
射貫くような双眸は、ふざけているようには見えない。
何か言いたげに口を開いたが、結局のところ杏寿郎の言動はどれも根付く理由があるのだ。
反論できるだけのものは何もなく、蛍は口を閉じると両腕を背中に回した。
「少しきつくするぞ」
「ん…っ」
鬼の力でも解けないようにとの意図なのか。腕を曲げて背中で重なり合った手首に、何本ものロープが重なりきつく結ばれる。
肌が少し引き攣る程の固さで結ばれたそれは、手首を捻ろうとも抜け出せる気配は全くない。
拷問の度に、しのぶが椅子に縛り上げてきたことを思い出す。
あの時も抜け出すことはできなかった。
「塩梅はどうだ?」
「引っ張られる感じはするけど、そんなに痛くはないよ」
「よし。ではその紐は、俺が良いと言うまで決して外さないように。この建物も含めて全ては駒澤村の中。此処で血鬼術を使うことも一切禁ずる。いいな」
「御意」
頷く蛍を確かめて、再び杏寿郎は向き合う形で座した。