第27章 わが情(こころ) 焼くもわれなり 愛(は)しきやし✓
「二人は仕事仲間だと聞いたんだが。一体どうして今の間柄に?」
「え。…と」
「若旦那は、職場じゃあ一目置かれる存在だろ? 柱なんだし」
「!…知って…?」
「ああ、煉獄家はこの村に昔から建つ名家だからなぁ。知っている者も、知らない者も、まぁ半々さ。昨夜の変な雨雲みたいなもんも、大方"そっち"関係のもんだろうしさ」
肩を竦めて飄々と語る優男。
ただの村人かと思っていたが、鬼殺隊を知る者だったとは。
今度は蛍が、興味深い視線を向ける番だった。
「若旦那はえらい別嬪なお嬢さんを弟子に取っても、色恋の話なんてとんとしない。なのに急に蛍さんを添い連れて歩くもんだから吃驚したんだよ。あ、蛍さんも勿論可愛らしい御方だよ」
「ぇ…ぁ、ぃぇ…」
「だから何をどうして、あの若旦那を射止めたのかって──」
「ご馳走様でした!!!」
カン!と鋭い音を立てて、空になった湯呑が机に叩き置かれる。
びくりと同じ反応を示す二人の視線が、いつの間にか食事を終えていた杏寿郎に向く。
「若旦那、もう食べ終えたんで? 早…」
「何やら楽しげに話していたようだし、混ざりたくなったんだ。俺達の関係性の話か?」
「大したことは、話してないよ」
きちんと揃えた箸を、ぱちりと並べて置く。
口元に笑みは浮かんでいるが、射貫くような双眸は健在で蛍は頸を横に振った。
「それより、食べ終えたなら行こう? 用事、済ませないと…」
「用事? 何かあるのかい?」
「個人的な私用だ。おいそれとは口にできない」
退く様子のない男をすっぱりと切り捨てると、杏寿郎は店員へと片手を上げた。
勘定を済ませ、今度こそ稀血提供場へと連れて行くのだろう。
男には腹は満たされていると言ったが、真逆だった。
腹は空いている。
中途半端に稀血という馳走を口にした為、余計に空腹は募っているのだ。
周りに迷惑をかけない為にも、早めに血を貰わなければならない。
席を立ちそそくさと身形を整える蛍を、勘定を済ませたであろう杏寿郎が呼んだ。
「蛍」
「うん…?」
ただし杏寿郎が足を向けたのは、出入り口の引き戸ではない。
逆方向の、店内の奥だ。