第27章 わが情(こころ) 焼くもわれなり 愛(は)しきやし✓
「蛍。俺達も座ろう」
「うん。でも杏寿郎、さっき夕飯食べたばかりじゃ…」
「なに。蕎麦くらいなら軽く入る!」
「…流石」
「お客さん方、お席へ案内しますねー」
メニュー表を手にした店員に案内され、手頃な席に向かい合って座る。
渡されたメニュー表からさくさくと注文をする杏寿郎の姿は、どこをどう見ても飲食店に訪れた客だ。
(稀血、貰うんじゃなかったのかな…)
実弥を同行させないところ、てっきり既に稀血の採血は終えているのだと思っていた。
しかしそんな素振りを見せない杏寿郎に、ひたすらに頸を傾げてしまう。
「以上だ。よろしく頼む!」
「はーい。ご注文承りましたぁ」
もり蕎麦、かけ蕎麦、きつねにたぬき、天婦羅に月見。
あらゆる蕎麦メニューを机に並べ杏寿郎の口は掃除機のように吸い込み食していく。
すぞぞ!と一つ啜るだけで、麺は器から姿を消す。
「うまい! うまい!! うまい!!!」
「はぁ…相変わらず半端ないねぇ…食い倒さないでくれよ…」
あんなに夕食を食べた後だというのに、まだこれだけ入るとは。
目を見張る蛍と同じく、一足先に食事を終えた男も感心と呆れが半々の顔で呟いた。
「ん? 蛍さんは食べないのかい」
「あ…はい。私は、もうお腹いっぱいで。夕食は済ませていたので」
「成程ね。ならこの甘味類なんてどうだい? ここのあんみつ、美味いんだよ」
「ええ、と…大丈夫、です。本当にお腹いっぱいで…」
「そうかい? だが若旦那の食いっぷりを見せつけられるだけなんて味気ないだろう」
「そうでもないですよ。杏寿郎…さんの食べっぷりは、見ていて気持ちがいいですから。こっちまで味わえているような気分になります」
「ふぅん?」
そう笑う蛍の眼差しは、瞬く間に器を空にしていく杏寿郎へと向いている。
柔らかく、優しい眼差しだ。
じっとその横顔を見つめていた男は、魅入るようにして口を開いた。
「蛍さん」
「? はい」