第7章 柱《参》✔
(…もしかして)
目の前で繰り広げられるやりとりに、蛍はまじまじと二人の隠を見やった。
かと思えば、隣に座っている蜜璃の袖を軽く引く。
「うん、そうよ。あの人が、蛍ちゃんのその服を作ってくれた隠さんなの」
今度は蛍の思考は無事伝わったようだ。
菊池と呼ばれた女性の隠が、蛍の特注服を作ってくれたのだと蜜璃は頷いた。
「初めまして、蛍さん。私は前田まさおという者です。鬼殺隊の隊服一式を担っている縫製係として、此処で働いております」
「嘘おっしゃい。あんたが担っているのは甘露寺様の隊服だけでしょーが」
胸に手を当て誠実そうな自己紹介を向ける前田に、即菊池の訂正が入る。
成程なぁとゲスメガネもとい、前田まさおを見て蛍もまた頭を下げた。
蜜璃の隊服が何故あんなにも女性の体の部位を強調するものなのか、この数分で全てわかった気がする。
「なんでも酷く肌が弱い体質だとか…それでも太陽の下、外を闊歩したいお気持ち察するに余りあります…! しかしその服装では些か息苦しくはありませんか?」
「ふ、ふく…?」
息苦しくないと言えば嘘になる。
それでも通気性は最大限に考慮したのだろう、そこまで苦しさを感じる訳でもない。
そう伝えようと頸を横に振れば、がしりと前田の両手が蛍の肩を掴んだ。
「!?」
「なんて健気な! 菊池を前にして遠慮しておられるのですね無理はよくない!」
「おい前田おい」
「よければ私が改めて蛍さんの服の改良を致しましょう! その口枷のような性癖に相応しい衣服を!」
「っ!?!?」
「おいつってんだろ前田」
「しかし私は嬉しゅう御座います、まさかそのような性癖の女性に会えるとは…! 口枷も手枷も女性の可憐さに一石投じるような味さ加減が私も大変好ゲフぅ!」
「公で堂々と下ネタに走るんじゃねーよ!!」
再び前田の頭に落ちる拳。
しかしそれは先程から軽蔑した目で突っ込みを入れていた菊池ではなく、後藤と呼ばれた隠の男のもの。
「場を弁えろ場を!(水柱がいるだろうが苦手なんだよあの人!!)」
「…ふく」
正義の鉄拳のように見えて、私情塗れのような空気を感じるのは気の所為だろうか。