第7章 柱《参》✔
市女笠を抜いだ際に、露わになった口枷。
それが尚、目を引いたのだろう。
周りの視線を強く感じながら、蛍は俯き加減に縮こまった。
「蛍ちゃんは、そのぅ…私の親戚なの! 暫く私の所に遊びに来ていて、此処にお泊りしているのよ」
「ほう。甘露寺殿の、ですか」
「え? 蜜璃ちゃんの親戚?」
「へぇ、道理で…」
「道理で、か?」
「いや…うーん…」
蜜璃の咄嗟の言い訳に恋柱愛な隠達はほわほわとした空気を浮かべたが、その目は頭から爪先まで蛍を見て最後には頸を傾げた。
特に胸辺りを見て頸を傾げる男達に、蛍の目が据わる。
(胸を見るな胸を)
彼らの言いたいことはよくわかる。
わかるからこそ目も据わる。
「そ、その服は…もしや!」
そんな隠の中で唯一、違う反応をしている者がいた。
ぷるぷると震える手で指差してくる、大きな丸い眼鏡を掛けた隠の男。
「貴女があの"蛍ちゃん"で!?」
「何初対面で馴れ馴れしく呼んでんだ、お前はよ」
「違う! 後藤! よく見ろ彼女を!!」
「見てるよ。だからなんだ。女だからってすぐ興奮するのやめ」
「なんて勿体無い格好を!!」
「…は?」
後藤と呼んだ男に捲し立てるその言葉に、蛍は目を丸くした。
格好とは今のこの服装のことだろうか。
太陽光を防ぐ為の特殊な和服は、隠の縫製係が作ったと聞いていた。
隠である眼鏡の彼も、それに関わっていたのだろうか。
これかと示すように袖を持ち上げ見せれば、眼鏡の男はぷるぷると震えながら蛍の下に縋った。
「嗚呼…なんて珍妙な服なんだ!!」
「珍妙てなんだ!」
「ゲフぅ!!」
その頭を後方から蹴り飛ばしたのは、またもや別の隠。
口布で顔は一切見えないが、その声色や体型から、どうやら女性のようだとわかる。
「あたしの作った服に、いちいち文句ばかり…!」
「現にそうだろう。見ろ菊池! あの面積の多さ! 無駄が多い! 彼女の肌のきめ細やかさを活かせてない!」
「うっさい黙れゲスメガネ!」
再びスパァン!と小気味良い音を立てて、菊池と呼ばれた女性の平手が頭に入る。
通称ゲスメガネに。