• テキストサイズ

いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第27章 わが情(こころ) 焼くもわれなり 愛(は)しきやし



 もり蕎麦、かけ蕎麦、きつねにたぬき、天婦羅に月見。
 あらゆる蕎麦メニューを机に並べ掃除機のように吸い込み食していく杏寿郎。
 すぞぞ!と一つ啜るだけで、麺は器から姿を消す。


「うまい! うまい!! うまい!!!」

「はぁ…相変わらず半端ないねぇ…食い倒さないでくれよ…」


 あんなに夕食を食べた後だというのに、まだこれだけ入るとは。
 目を見張る蛍と同じく、一足先に食し終えた男も感心と呆れが半々の顔で呟いた。


「ん? 蛍さんは食べないのかい」

「あ…はい。私は、もうお腹いっぱいで。夕食は済ませていたので」

「成程ね。ならこの甘味類なんてどうだい? ここのあんみつ、美味いんだよ」

「ええ、と…大丈夫、です。本当にお腹いっぱいで…」

「そうかい? だが若旦那の食いっぷりを見せつけられるだけなんて、味気ないだろう」

「そうでもないですよ。杏寿郎…さんの食べっぷりは、見ていて気持ちがいいですから。こっちまで味わえているような気分になります」

「ふぅん?」


 そう笑う蛍の眼差しは、瞬く間に器を空にしていく杏寿郎へと向いている。
 柔らかく、優しい眼差しだ。

 じっとその横顔を見つめていた男は、魅入るようにして口を開いた。


「蛍さん」

「? はい」

「二人は仕事仲間だと聞いたんだが。一体どうして今の間柄に?」

「え。…と」

「若旦那は、職場じゃあ一目置かれる存在だろ? 柱なんだし」

「!…知って…?」

「ああ、煉獄家はこの村に昔から建つ名家だからなぁ。知っている者も、まぁいるにはいるさ。昨夜の変な雨雲みたいなもんも、大方"そっち"関係のもんだろうしさ」


 肩を竦めて飄々と語る優男。
 ただの村人かと思っていたが、鬼殺隊を知る者だったとは。
 今度は蛍が、興味深い視線を向ける番だった。


「若旦那はえらい別嬪なお嬢さんを弟子に取っても、色恋の話なんてとんとしない。なのに急に蛍さんを添い連れて歩くもんだから吃驚したんだよ。…あ、蛍さんも勿論可愛らしい御方だよ」

「ぇ…ぁ、ぃぇ…」

「だから何をどうして、あの若旦那を射止めたのかって──」

「ご馳走様でした!!!」


 カン!と鋭い音を立てて、空になった湯呑が机に叩き置かれる。

/ 3465ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp