第27章 わが情(こころ) 焼くもわれなり 愛(は)しきやし✓
自分に納得させるように頷きながら、日陰へと非難する蛍。
それを黙って見送りながら、蛍の視線が己へと向いていないことを確かめて、実弥は癖の強い髪をぐしりと乱暴に掻いた。
(こればっかりは俺にも予想つかねェからなァ)
杏寿郎が怒ったところをあまり見たことがないと、蛍は言った。
それは実弥も同じだった。
鬼に対して許し難い怒りを見せたことは多々あれど、一人の女性に対して不安を覚えさせるような怒りは見せない男だ。
それを知っているからこそ、不穏も残る。
鬼としてでも伴侶にと望んだ程、好いた相手だ。
その相手が憎む鬼の男の餌食になっていたのだと、そう知ったら。
それが自分だったらと、置き換えたら。
一体感情は何処に行き着くのだろう。
「…想像したくもねェな」
「え? なんですか、不死川様」
「なんでもねェ」
自分であれば、こんな呑気に日光浴などする気分にはなれない。
それは人ができている杏寿郎とて同じことだろう。
先程までその気配を殺し、日常を送ろうとしていた杏寿郎も限界だったのかもしれない。
(普段温厚な奴程キレると厄介だからなァ…)
柱内で言えば、岩柱の行冥だろう。
すぐに揉め事を起こす柱達を初動で黙らせる程、普段は温厚で静かな行冥の圧は、その分目を見張るものがある。
のどかな山地程、噴火の被害は凄まじいというものだ。