第27章 わが情(こころ) 焼くもわれなり 愛(は)しきやし✓
千寿郎に急かされるまま、部屋へと踏み込む。
そこでふと蛍は不思議そうに顔を上げた。
「そういえば、杏寿郎は一人で日光浴してるの? 不死川のところに血を貰いに来たりした?」
「いや、来てねェ。俺ァてっきり兄弟でいんのかと」
「兄上ですか? 兄上なら、少し前に出て行かれましたよ」
「え?」
「あ?」
予想外の答えに、蛍と実弥の腑抜けた声が重なる。
二人の視線を集めた千寿郎は、きょとんと頸を傾げた。
「なんでも、用事ができたとかで。夕刻には戻ると言っていました」
「用事…なんだろう」
「さァなァ。そこまでいちいち詮索したところで、アイツの心情を全て計れもしねェだろォ。大人しく待ってろ」
「…うん」
実弥の言う通りだ。
先程の今で、つい色々なことを勘繰ってしまうが、前々から入っていた用事なのかもしれない。
(そういえば、前にもそんなことあったっけ)
思い返せば煉獄家へ帰省してから、杏寿郎が具体的な行き先を告げずにふらりと出かけることは度々あった。
訊けば顔見知りに挨拶に行っていたり、近所の物売りに捕まっていたりと、微々たる理由で然程気にすることもなかった。
何より此処は杏寿郎の故郷だ。個人的な用事もあるのだろう。
今回も間が悪いだけで、同じような内容なのかもしれない。