第27章 わが情(こころ) 焼くもわれなり 愛(は)しきやし
駒澤村を、二人で歩む。
以前、槇寿郎に煉獄家を追い出された時は、人気のない夜だった。
しかし今は、村を歩めばあちらこちらで人を見る。
何やら看板を立てたり、提灯を飾ったり。
忙しなく働いている村人達に、蛍は不思議そうに辺りを見渡した。
「なんで、夜なのにこんなに人が多いのかな…」
「話していなかったか? 駒澤村の神幸祭は、数日に渡って行われる。初日は昼間だけだが、日が進めば夜の部の祭りもある。昨日は童磨との一戦で、中断されたみたいだからな。改めて皆、飾り付けを行っているのだろう」
「え…じゃあ、夜の神輿渡御があるの…っ?」
「うむ。先日行われたな」
「先日?」
「蛍が行方不明になっている間に、神幸祭も数日過ぎ去った」
「え!」
テンジの反転世界に取り込まれていた時は、時間の感覚がわからなかった。
その間に時間は過ぎ去っていたようだ。
あからさまに驚き、そして落ち込む蛍に杏寿郎が苦笑する。
「そう落ち込むことはない。神幸祭は、今日を含め後三日は残している。特に最終日は今まで以上に盛り上がるんだ。その日まではお館様にも休暇を頂いている。共に観に行こう」
「…本当?」
「ああ」
「千くん達とも?」
「勿論。叶うなら、父上も誘いたい」
「! うん、誘おう。ぜひっ」
ぱぁっと花が咲くように、蛍の顔が明るく変わる。
何度も頷く蛍の喜び様に、杏寿郎も口元を綻ばせた。
煉獄家を出た時はどうなることかと思っていたが、二人を包む空気は悪くない。
寧ろ心地良く流れる息のし易さに、蛍は尚も心を弾ませた。
「あの、ね。杏寿郎」
「うん?」
今なら、言えるかもしれない。
緊張と不安で口にできなかったことを、賑やかな祭りの準備の合間を通り過ぎながら、杏寿郎に投げかける。
「その…不死川から、聞いたの。童磨の、リボンのこと。杏寿郎に話したって。…黙っていて、ごめんなさい」
自然と足元へと視線は落ちる。
恐る恐ると紡いだ言葉に、杏寿郎のテンポよく続いていた相槌は聞こえない。
「…黙秘していたのは、それなりの理由があったのだろう?」
やがて、ぽつりと返された静かな問い。
顔を上げれば、杏寿郎の視線は歩む先へと向いていた。