第27章 わが情(こころ) 焼くもわれなり 愛(は)しきやし✓
飾り気の一切ない裸の実弥の言葉は、今の蛍には心地良かった。
取り繕う必要がないから、素直な心を打ち明けられる。
「ありがとう、不死川。元気出た」
「つーか、それくらいで俺に泣き付いてくんなァ」
「な…っ泣き付いてはいないけど…ッ」
「この世の終わりみたいな顔して崩れ落ちてたじゃねェか」
「ぅ…それは、あまりに私との温度差があって羨ましくなってですね…!」
「だからデケェ声出すなっての。逃げんだろォ」
「あっごめん猫ちゃ…」
「シャアッ!」
「ぁたッ」
慌てて庇うように蛍が手を伸ばせば、ぴんと耳を立てるだけで済んでいた猫が飛び上がった。
蛍の手を拒否するように鋭い爪で引っ掻くと、瞬く間に縁側を飛び降り逃げていく。
「あちゃ…逃げられちゃった…」
「言わんこっちゃねェ」
「ごめん…」
「別に。俺の猫じゃねェし」
「なのにあんなに懐いてたの?」
「ンだァその目は」
「…ううん」
まじまじと実弥を見つめれば、再び傷だらけの指が向く。
二度目のデコピンを喰らうまいと身を退きつつ、蛍は頸を振って笑った。
「不死川って、動物に好かれるんだね」
「あァ? 笑いたきゃ笑えばいいだろォ」
「そうじゃないよ。意外だったけど、なんとなくわかる気もする」
猫に引っ掻かれた傷は、既に完治へと向かっている。
何も残らない自身の指と、千寿郎の手当ての跡が残る実弥の指とを見比べて。
「根は良いんだと思う。そういうものが、きっと動物にはわかるんだよ」
力なく笑った。
本来なら、薄ら寒いことを一蹴した。
それができなかったのは、なんとなく蛍のその笑みが引っ掛かったからだ。
「お前──」
「あ! 姉上またそんな所に…っ」
「げ。」
「げってなんですか、げってッ」
「あ、いや。うん。ごめん千くん」
呼びかけようとした実弥の声は、中庭に出ていた千寿郎に掻き消された。
洗濯籠をその場に下ろして駆け寄ってくる千寿郎に、慌てて蛍も腰を上げる。
「洗濯物? 私も手伝おうか」
「大丈夫ですっそれより姉上は中へ!」
「はい。すみません」