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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第27章 わが情(こころ) 焼くもわれなり 愛(は)しきやし



 千寿郎に急かされるまま、部屋へと踏み込む。
 そこでふと蛍は不思議そうに顔を上げた。


「そういえば、杏寿郎は一人で日光浴してるの? 不死川のところに血を貰いに来たりした?」

「いや、来てねェ。俺ァてっきり兄弟でいんのかと」

「兄上ですか? 兄上なら、少し前に出て行かれましたよ」

「え?」

「あ?」


 予想外の答えに、蛍と実弥の腑抜けた声が重なる。
 二人の視線を集めた千寿郎は、きょとんと頸を傾げた。


「なんでも、用事ができたとかで。夕刻には戻ると言っていました」

「用事…なんだろう」

「さァなァ。そこまでいちいち詮索したところで、アイツの心情を全て計れもしねェだろォ。大人しく待ってろ」

「…うん」


 実弥の言う通りだ。
 先程の今で、つい色々なことを勘繰ってしまうが、前々から入っていた用事なのかもしれない。

 頷きながら日陰へと非難する蛍を、黙って見送る。
 その視線が己へと向いていないことを確かめて、癖の強い髪をぐしりと傷だらけの手が乱暴に掻いた。


(こればっかりは、俺にも予想つかねェからなァ)


 杏寿郎が怒ったところをあまり見たことがないと、蛍は言った。
 それは実弥も同じだった。

 鬼に対して許し難い怒りを見せたことは多々あれど、一人の女性に対して不安を覚えさせるような怒りは見せない男だ。
 それを知っているからこそ、不穏も残る。

 鬼としてでも伴侶にと望んだ程、好いた相手だ。
 その相手が憎む鬼の男の餌食になっていたのだと、そう知ったら。
 それが自分だったらと、置き換えたら。
 一体感情は何処に行き着くのだろう。


「…想像したくもねェな」

「え? なんですか、不死川様」

「なんでもねェ」


 自分であれば、こんな呑気に日光浴などする気分にはなれない。
 それは人ができている杏寿郎とて、同じことだろう。
 先程までその気配を殺し、日常を送ろうとしていた杏寿郎も限界だったのかもしれない。


(普段温厚な奴程、キレると厄介だからなァ…)


 柱内で言えば、岩柱の行冥だろう。
 すぐに揉め事を起こす柱達を初動で黙らせる程、普段は温厚で静かな行冥の圧は目を見張るものがある。

 のどかな山地程、噴火の被害は凄まじいというものだ。











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