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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第27章 わが情(こころ) 焼くもわれなり 愛(は)しきやし



 童磨は顕著にその言葉を口にはしなかったが、十分に示唆できる言葉を選んで杏寿郎に向けた。
 童磨の前で体を晒してしまったことを、杏寿郎も気付いているはずだ。


「そ…っか…」

「まァこればっかりは、煉獄が気の毒だったから話した。仕方ねェだろォ」

「え?」

「あ?」

「……なんの話?」

「何って、お前の足首に縛り付けてあった紐飾りのことだろォ」

「紐飾り…あ! リボンっ?」


 しかし実弥の意図することは違ったようだ。
 違和感を覚えて頸を傾げれば、当然のように告げられたものに思わず声が上がる。
 理解した途端、思い違いをしていたことに羞恥した。


「そ、そっか。リボン…そっか」

「? 何慌てふためいてんだァお前」

「なんでもない、なんでもないっ。それで、杏寿郎は、なんて?」

「…"そうか"、だとよォ」

「…それだけ?」

「ああ」

「……それだけ…」


 再び己の足元へと落ちる視線。
 何か言いたげな唇をきゅっと結ぶ。


(そうだよ。迷惑かけたのに。嫌な気に、させてしまったかもしれない)


 心配してくれただろうか、などと淡い期待を抱くなど。
 そんな自分にほとほと嫌気が差した。

 杏寿郎の心を惑わさない為にと黙っていたのに、結局のところ迷惑をかけてしまった。
 問い詰められなかっただけ、良かったと思わなければ。


「俺があいつだったら、知りたいと思った。だから話した。後のことは、お前自身の口で伝えろ」

「後の、こと…?」

「そこまで説明しなきゃわかんねェのかァ? 現状を把握できたんなら、残すは心だろォ。これ以上重い空気作りたくなけりゃ、自分で向き合って来い」

「……」

「なんだァそのマヌケ面」

「や…不死川が、まともなこと言ってるなって…イダッ!?」


 まじまじと目を向ける蛍の額が、青筋を浮かべた指による強烈な額弾きを喰らう。
 所謂デコピンである。


「ぃっつぅ…!」

「人様に愚痴零しといて、随分な口の利き方だなァオイ?」


 こればかりは実弥が正しい。
 煙を上げる程の熱いデコピンに涙目になりながら、蛍は大人しく頭を下げた。


「ごめんなさ痛い」

「語尾の主張がうぜェ」

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