第27章 わが情(こころ) 焼くもわれなり 愛(は)しきやし
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「成程ねェ…」
「うん…」
ぽかぽかと心地良い秋の日差しが、二人を照らす。
いつの間に其処にいたのか、同じく日向ぼっこを楽しむ一匹の猫が実弥の前で寝転がっている。
目の前の男は危険なものではないと、理解しているかのように。柔らかな四肢を伸ばして逃げる素振りもなく寛ぐ猫を、傷だらけの手が優しく撫でた。
「んなこと知るかよ俺が」
「一刀両断っ!?」
「デケェ声出すな、ビビんだろォが」
「あ、ごめ…いや。というかその猫、何処の子? 此処じゃないよね」
「知らねェ。目が合ったら入ってきやがった」
「目が合ったらって」
蛍の声にぴんと耳と尾を立てたものの、実弥が触れれば再びのんびりと縁側に伏せる。
随分と人に慣れた猫だ、何処かの飼い猫なのだろうか。
興味を持つも、蛍の頭は別の不安でいっぱいだった。
「…人間も、犬猫みたいにわかり易かったらいいのに…」
実弥の隣で膝を抱いて体操座りをしている蛍は、しょんぼりと小さく見える。
日差し除けの羽織を、すっぽり頭に被せているから余計にそう見えるのか。
「つーか、なんだそのダルマみてェな恰好は。ふざけてんのか」
「ふざけてないですけど。必死にこの場に居座る為にンぷッ」
「頭に被せてろォ。見てて片腹痛くなるわ」
「言葉の使い方少し違」
「つべこべ言わずに着てろォ、るっせェなァ」
ばさりと頭に被せたのは、実弥の羽織。
背中に"殺"と書かれた羽織を被せられたのは、これで二度目だ。
(あの時は、全身火傷でまともに動けもしなかったんだっけ…)
アオイを守り、人間ならば死に至る重度の火傷を負った。
指先一つ動かせず死体のように転がっていた蛍を、真っ先に見つけたのは実弥だった。
羽織を正しく着直し、借りた実弥の羽織を頭に被る。
ふとそんなことを思い出していれば、少しだけ心は落ち着いた気がした。
あの火傷の時程、現状は悪くはないはずだ。