第27章 わが情(こころ) 焼くもわれなり 愛(は)しきやし✓
陽光を遮る屋敷の奥へと続く廊下。
片腕に蛍を抱えたまま進む杏寿郎の足は、心なしか足早だ。
「…きょ、う…?」
「うん?」
ゆらゆらと揺れていた頭が、動きを鈍らせる。
朧気だった縦に瞳孔を割った瞳が、杏寿郎の姿を捉えてぱちりと瞬いた。
「正気に戻ったか?」
「…え、と」
まだどことなくふわふわと浮付いているような気分だ。
それでも杏寿郎に抱かれて運ばれていることを理解した蛍は、不思議そうに辺りを見渡した。
「あれ…不死川、は?」
注射器を握っていた杏寿郎の指先が、ぴくりと反応を示す。
「不死川には交代して貰った」
「交代…?」
「蛍の稀血への反応は、千寿郎には刺激が強過ぎたからな」
「ぇ…ぁ…私、まさかまた牙を剥いたり…?」
「いいや、その問題はない。だが聊か血に夢中になり過ぎるきらいがある。目先のことが見えなくなる為、千寿郎を近くに置くのは止めておこうと俺が判断した」
「そ、そっか…ごめんなさい」
「何故蛍が謝る。稀血に中てられれば、どのような鬼だって皆そうなる。致し方ないことだ」
会話を続けながらも、杏寿郎の歩む速度が緩む気配はない。
そのまま自室に辿り着くと、襖を締め切った部屋の中心でようやく蛍を下ろした。
「なりたくてなっている訳じゃないだろう? 仕方なく稀血に惑わされているだけだ」
「ぅ…うん」
確かに杏寿郎の言う通りだ。
しかし一言一言、どこか有無を言わさない強さを感じて、蛍は言い包められるように頷いた。
「さぁ、続きだ」
「え?」
「まだ満足に血を摂取していないだろう」
向かい合い座る杏寿郎の手には、見慣れた注射器。
その言葉の意味をすぐさま理解した蛍は、反射的に押さえるように上から握り締めた。
「だめっ」
「む?」