• テキストサイズ

いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第27章 わが情(こころ) 焼くもわれなり 愛(は)しきやし



 無闇に踏み入られ、好きに荒らされた。
 それも杏寿郎が無二のものと大切にしている女性を使って。


「情緒が随分と波打ってんなァって、よ」

「情緒…あの…兄上に、何があったのでしょうか…」


 千寿郎は、童磨との戦いの詳細を知らない。
 だから余計に不安は募るのだろうが、それでいいのだと実弥は思う。
 鬼の毒牙など知らないまま生きていけるなら、それでいいのだ。


「ン。大丈夫だ、お前の兄貴と姉貴だろォ」

「わ、」


 くしゃりと、柔らかに立つ髪を掻き撫でる。
 心配そうな面持ちを残す千寿郎に、優しく目を細めて実弥は問題ないと告げた。


「二人のことは、二人に任せておけばいい」






























「…きょ、う…?」

「うん?」


 ゆらゆらと揺れていた頭が、動きを鈍らせる。
 朧気だった瞳が、杏寿郎の姿を捉えてぱちりと瞬いた。


「正気が戻ったか?」

「…え、と」


 まだどことなくふわふわと浮付いているような気分だ。
 それでも杏寿郎に抱かれて運ばれていることを理解した蛍は、不思議そうに辺りを見渡した。


「あれ…不死川、は?」


 注射器を握っていた杏寿郎の指先が、ぴくりと反応を示す。


「不死川には交代して貰った」

「…交代?」

「蛍の稀血への反応は、千寿郎には刺激が強過ぎたからな」

「ぇ…ぁ…私、まさかまた牙を剥いたり…?」

「いいや、その問題はない。だが聊か血に夢中になり過ぎるきらいがある。目先のことが見えなくなる為、千寿郎を近くに置くのは止めておこうと俺が判断した」

「そ、そっか…ごめんなさい」

「何故蛍が謝る。稀血に中てられれば、どのような鬼だって皆そうなる。致し方ないことだ」


 会話を続けながらも、杏寿郎の歩む速度が緩む気配はない。
 そのまま自室に辿り着くと、襖を締め切った部屋の中心でようやく蛍を下ろした。


「なりたくてなっている訳じゃないだろう? 仕方なく、稀血に惑わされているだけだ」

「ぅ…うん」


 確かに杏寿郎の言う通りだ。
 しかし一言一言、どこか有無を言わさない強さを感じて、蛍は言い包められるように頷いた。

/ 3464ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp