第27章 わが情(こころ) 焼くもわれなり 愛(は)しきやし✓
「へェ。面倒な摂取方法してんなァお前」
「じゃなくて、それが一番効率がいいの。柱の体を傷付けなくて済むし」
「傷は付くだろォが」
「最小限って意味。いいから、早くやって早く終わらせよう」
どうにか千寿郎の必死の説得により、一騒動は静まった。
胡坐を掻いてまじまじと注射器を目線の高さに合わせる実弥を、向き合い座る蛍が急かす。
柱から血を貰う。
その行為を聞いてはいても、千寿郎も目の当たりにしたことはなかった。
故に興味を抱いて、観察させて欲しいと頼み込んだ。
「千寿郎。俺の前には決して出ないように」
「はい」
部屋の隅で座する杏寿郎の背後から、恐る恐ると顔を出しながらもその目は興味津々に二人を見つめている。
「採血は胡蝶がやってる方法と同じだから。この紐で腕を縛って血管を浮かせるから、そこに注射針を合わせて…」
「あ?」
「って! 今説明してたのにッ」
興味本位に注射針に、微かに触れた。
その一瞬でさえも、鋭利な針は易々と皮膚を貫通し、ぷくりと実弥の指先に赤い真珠を浮かばせた。
一滴の血液だとしても、相手は稀血の中でも更に特殊な血を持つ男である。
咄嗟に蛍は両手で口と鼻を覆うと、嫌うようにそっぽを向いた。
「早く、採血ひて」
「あァ? 今から飲む血に対してなんだァその態度は」
「嗅ぐと酔うはらッ」
「それに耐える訓練じゃねェのかよォ」
実弥の言うことは尤もだ。
何も返せないでいる蛍の前に、ぷくりと赤い血液を乗せた指を実弥が差し出した。
「オラ。勿体ねェだろが。飲め」
「…なんの拷問…」
「お前が望んだことだろォが。拷問でもなんでも受ける覚悟で言ったんじゃねェのか。あ?」
「……」
覚悟はあった。
蛍の中で、実弥の稀血を糧として選んだのは譲れない選択だった。
『愛おしいから、触れていたい。傍にいたい。そのうちにそれだけじゃ足りなくなる。見たい。知りたい。感じたい。──どんな味がするのか』
諭すように童磨に告げられた言葉が、あの日以来ぐるぐると頭の中を回っている。
いつかは喰べたくなる。
血だけじゃ足りなくなる。
だから体中に愛しいものの血の匂いを充満させているのだと、そう言われた。