第27章 わが情(こころ) 焼くもわれなり 愛(は)しきやし✓
「では、道具を取って来る。蛍は此処で待っていてくれ」
「! あのっ」
「うん?」
「そのことなんだけど…あの、私」
歯切りが悪そうに、蛍が何か告げようとする。
部屋を出ようとした足を止めて、杏寿郎は促すことなくその言葉を待った。
「血…不死川から、貰っても、いい?」
「…む?」
「…あァ?」
だがそれは杏寿郎の予想を大きく上回るものだった。
思わず実弥と共に、間を置いて呆気に取られた声を漏らしてしまう。
「杏寿郎の血が、嫌とかじゃなくて。いつも貰ってるから…こういう機会があるなら、別の柱から貰った方がいいかなって…っ」
慌てて付け足すように告げる蛍の意見は、確かに一理ある。
一理は、あるのだが。
「しかし、不死川の血は稀血で…」
「うん、だから尚更。稀血にも慣れておきたいから。二人も柱がいてくれる今なら、安心して挑めるだろうし」
「慣れんのかァ? お前が俺に」
「不死川に、じゃなくて稀血に、です。やらないことには、慣れる慣れない以前の問題だから。不死川も協力して」
「頼み方が違ェ。協力して下さい、だろォ。提供すんのは俺だ」
「…ドウゾ協力シテ下サイ」
「なんだァそのカタコト口調はァ」
「オ願イシマス」
「馬鹿にしてんのかオイ」
「不死川様ノ稀血ヲ頂ケルナンテ至福ノ至リ」
「口と顔が噛み合ってねェんだよ!」
「本心デスー嬉シイナー」
「よォし言ったなァ喉奥まで拳ごと突っ込んでやらァ!!」
「し、不死川様落ち着いて…! 姉上もそんな死んだ目しないで!!」
生気のない真顔の蛍を、胸倉掴んで凄む実弥。
そんな二人を慌てて止めに入る千寿郎。
ぎゃいのぎゃいのと騒がしくなる目の前の光景を見ながら、杏寿郎は一人沈黙していた。
その表情は、どうにも腑に落ちないものとして。