第27章 わが情(こころ) 焼くもわれなり 愛(は)しきやし
「お前、親父さんにまで妬いてんじゃねェよ…」
「妬いてはいない! が、羨ましい!!」
(それを妬いてるって言うんじゃねェのかァ)
という突っ込みは喉の手前で呑み込んで、実弥は呆れた視線だけを向けた。
同僚のそんな訴えも何処吹く風。杏寿郎の目は、着替えを済ませた蛍だけを捉えている。
「蛍。次からは身形に気を付けて体の大きさを変えるように」
「ぅ、うん。気を付けます」
「うむ。しかし幼児の姿を保っていたのは、何も千寿郎の頼み事だけではないだろう?」
「え?」
疑問符を上げたのは、蛍ではなく千寿郎だ。
蛍の顔は、最初に見せた時と同じ。ばつが悪そうな表情を浮かべていた。
「飢餓か」
「…うん」
蛍が体を子供へと変える理由は、体力的な問題か、はたまた飢餓の兆候を抑える為か。
それを知っていたからこそ、杏寿郎は疑問を持つこともなく投げかけた。
あれ程の怪我と疲労を蓄積させていたのだ。
蛍の体が、血を欲していても不思議ではない。
「そういう時は、遠慮せずに声をかけるようにと言っているだろう」
「…はい」
(まぁ、昨日の今日だ。簡単には告げられなかったかもしれないな)
槇寿郎との一悶着があったばかり。
同じ屋敷内に住まう槇寿郎を思えば、蛍の性格なら躊躇しても可笑しくはない。
杏寿郎自身、咎める気はなく、やんわりと口元を緩めた。
「では、道具を取って来る。蛍は此処で待っていてくれ」
「! あのっ」
「うん?」
「そのことなんだけど…あの、私」
歯切りが悪そうに、蛍が何か告げようとする。
部屋を出ようとした足を止めて、杏寿郎は促すことなくその言葉を待った。
「血…不死川から、貰っても、いい?」
「…む?」
「…あァ?」
だがそれは杏寿郎の予想を大きく上回るものだった。
思わず実弥と共に、間を置いて呆気に取られた声を漏らしてしまう。
「杏寿郎の血が、嫌とかじゃなくて。いつも貰ってるから…こういう機会があるなら、別の柱から貰った方がいいかなって…っ」
慌てて付け足すように告げる蛍の意見は、確かに一理ある。