第27章 わが情(こころ) 焼くもわれなり 愛(は)しきやし
「お前はもう少し声を抑えろ。返事くらい静かに」
「すみませんッ!!」
「………しろと言っている」
指摘された内容よりも、声をかけられたことが何より嬉しかったのか。
台所に響く程の返事と謝罪に、槇寿郎は脱力気味に言葉を続けた。
こんなやり取り、既に蛍が煉獄家を訪れてから幾度も交わしている。今更感も強い。
これでいいか、と言わんばかりに蛍へと目を向けると、槇寿郎は廊下へと歩き出した。
その足がふと止まる。
何かを思い出したように再び蛍を見る目に、幼い少女もまた姿勢を伸ばした。
まさか自分にも声をかけてもらえるとは。
何を言われるのだろうか。
「そんな姿で辺りを彷徨かれては、変な噂が立ち兼ねん。必要でないならするな」
「っす、すみません」
ぼそりと告げられた言葉は、尤もなものだった。
急降下していく心と共に、焦りと申し訳無さが募る。
慌てて頭を下げる。
と、その頭がにょきりと伸びた。
「!?」
否、蛍の身長が伸びたのだ。
蛹が蝶へと脱皮していくかのように、音もなくいつもの蛍の年齢へと上がっていく。
「気を付け、ます」
元の姿に戻った蛍が顔を上げれば、驚き息を呑む槇寿郎と目が合った。
と、その視線が凝視したまま不意に下がる。
「父上! では俺達は再び日光浴に戻りたいと思います!!」
目にも止まらぬ速さで、今度は杏寿郎が蛍の前に庇い立った。
後ろ手で蛍の着ていた羽織の前を、きつく手繰り寄せる。
そこで初めて蛍も己の姿に気付いた。
急な体の成長に、勿論着ている衣服がついて来れるはずもない。
短い千寿郎の浴衣では、太腿は隠しきれていない。
面積も足りず、蛍が動けばスリット状になってしまっている浴衣の隙間から、足の付け根が今にも見えてしまいそうだ。
「っお、お目汚しを…すみません…」
ぷしりと、頭から湯気を一つ。
体は成長したままだが、小さくなるように赤い顔を俯かせて、蛍はごにょごにょと謝罪を零した。
穴があったら入りたい、とは正にこのこと。