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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第27章 わが情(こころ) 焼くもわれなり 愛(は)しきやし



 テンジは人間を憎んでいた。
 好きになどなれない、怖い、共に生きていけないと拒絶していた。
 それでも己の世界に迎え入れた人間達から、痛みを取り除いていたのだから。


「…僕も、会ってみたかったです。その天子という鬼に」

「いちどだけなら、せんくんもあってるよ。かせんじきにむかえにきてくれた、かえりみちに」

「えっ…あ! あの、夜道に出てきた…っ?」

「うん」


 千寿郎も一度だけなら見たことがある。
 あの、蛍を神隠しにした直前に。


「むじゃきですなおなこだったよ。いっぱいわらうし、いっぱいなくし。ちがにがてで、おとながこわくて、あそびがだいすきだった」

「…幼い子供みたいですね…」

「そうだったんじゃないかな。こころは、きっと」


 数多の幼い魂を宿した、特殊な鬼だ。
 時を止めていたのは、体だけではなく心もそうだったのかもしれない。


「もっと、あそんであげたかった」


 宙を見上げて、ぽつりと零す。
 蛍のその言葉に太い杏寿郎の眉が皺を寄せた時。パサリと、上品な羽音が部屋へと舞い込んだ。

 視界に入り込んだのは、杏寿郎の鎹鴉。要。


「台所」


 その目は蛍を捉え、ただそれだけ告げる。
 途端に蛍は表情を切り替えると、千寿郎の膝から飛び降りた。


「ごめん、ちょっと」

「姉上?」

「だいどころにいってくる!」

「ご飯ですかっ? それなら僕が用意を…ッ」

「鬼は飯食わねェだろォ」


 尤もな意見を告げる実弥を最後に、廊下へと走っていく蛍を千寿郎も追う。
 唇を結んだまま、杏寿郎も追う為にと腰を上げた。










「──しんじゅろうさんッ」

「!?」


 人気のない台所。
 其処に見知った人物を見つけて、蛍は声を弾ませた。
 弾んでいるのは、幼い足で走った所為だ。

 その姿に驚いて目を止めたのは、真新しい酒壺を手にした槇寿郎だった。


「こん、にちは! いいおてんき、ですねッ」


 槇寿郎の前で足を止めると、ぎこちない程にぎくしゃくと蛍が挨拶を向ける。
 そんな小さな子供を凝視しながら、槇寿郎もまた口を開いた。


「……なんだその姿は」


 凡そ挨拶への返しではない。
 当然の疑問だ。

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