第27章 わが情(こころ) 焼くもわれなり 愛(は)しきやし
そんな愛らしい二人の攻防を見ていれば、甘やかしたくもなるもので。
「蛍。千寿郎」
「え?」
「兄上」
「そら。此処なら大丈夫だろう? おいで」
部屋の日陰へと移動した杏寿郎が、膝を着いて蛍へと両腕を広げた。
「今日は一日日光浴じゃねェのかァ?」
「なに、背中は日光浴中だ!」
温かい秋の日差しは、背中に受けている。
声高々に告げる杏寿郎に、実弥は呆れ顔を。千寿郎は不満顔を。蛍は、ぱっと顔を綻ばせた。
「きょう……せん、くん」
「え?」
杏寿郎の下へ駆け寄ろうとして、不意に止まる。
振り返った蛍は、徐に千寿郎の手を握ると歩き出した。
「ぁ、姉上?」
「はい、せんくんはここ」
「む?」
腕を広げた杏寿郎の膝に、千寿郎を座らせる。
更にその千寿郎の膝に、蛍はぽふんと身を預けた。
「蛍、これは…」
「ふっふふ。きょうじゅろうと、せんくん。これならいっぺんにひとりじめできる」
千寿郎の胸に頭部を預けて、反り返った蛍が二人を見上げて笑う。
視界には、きょとんと見下ろしてくる杏寿郎と、どこか気恥ずかしそうに見てくる千寿郎。
二人の大好きな顔を前にして、蛍は満足そうに頬を緩めた。
「ぜいたくだなぁ」
ふにゃりと笑う。
蛍の幼くも砕けた素の感情に、異なる金輪の双眸達が釘付けとなった。
「にっこうよくしてたから、かな。きょうじゅろうのふくもふかふっ?」
千寿郎越しに杏寿郎の袖に小さな手が触れれば、むぎゅりと押し潰さん程の強い抱擁を貰う。
「む、く…ひょう、じゅろ?」
「〜…愛い…っ」
「そんな腹の底から絞り出す言葉かよォ…」
ぷるぷると震える体は、我慢ならないと語るように千寿郎ごと蛍を抱きしめている。
「せんふん、だいじょうぶ…っ?」
「はい、大丈夫、です。はい」
こくこくと頷く千寿郎の顔には未だ気恥ずかしさが残っていたが、口の端は緩み、下がり眉が尚下がる。
兄の腕により強制的に押し付けられる小さな体を抱きしめて、ふやふやと嬉しそうに笑っていた。
(…似た者兄弟…)
呆れ返る実弥の突っ込みは、とうとう声すら取り上げた。