第7章 柱《参》✔
「た、大変だ! 皆! 恋柱の蜜璃様がいらしてるぞ! 覆面を付けろ!」
蜜璃の説明を蛍が耳にしていると、膝をついていた男が精一杯の声で部屋の中へと呼び掛けた。
皆と言っているところ複数の隠がいるのだろうか。
「ま、マジか!」
「えっあの蜜璃ちゃん!? ナマ蜜璃ちゃん!? うそ俺見たい!」
「バッカ! 自分の立場を弁えろ! つかはよ顔隠せ!」
「……」
「沢山、いるのね」
どたばたと襖の向こうから聞こえてくる物音と声。
一人や二人ではない。
結構な人数の隠が、何やら素顔を突き合わせていたらしい。
「もしかしてお邪魔だったかしら…」
「そんな! 滅相もない!」
「そうですよ! 此処は休憩所ですし!」
「甘露寺様も休んでいかれて下さい!」
にょきにょきと襖の向こうから顔を覗かせたのは、やはり複数の隠達だった。
全員目元しか見えない服装だが、揃ってにこにこと笑顔を浮かべていることはわかる。
それだけ明るく催促する隠達に、蜜璃の表情も明るいものへと変わった。
「それなら良かった! どうしても蛍ちゃんを休ませたかったから」
「蛍? 誰ですかそ」
「なんで一つ屋根の下に隠が集まっているんだ。任務じゃないだろう」
「と、冨岡さん!?」
「えっ!? あの水柱!?」
「なんで冨岡様が!?」
「なんで蜜璃ちゃんと!?」
「え嘘やだ! オレやだそんなの!」
「…なんだかとっても楽しそうね」
「あれが楽しげに見えるか」
蜜璃の後を追うようにして姿を見せた義勇に、待機所にいた沢山の隠達がまた一斉に騒ぎ始める。
今度は顔を蒼白にして、頭を抱えて、頸を横に振りながら、時には涙して。
蜜璃を出迎えた時とはまるで違う反応に、流石の義勇も静かながら突っ込んだ。
隠は全員、男でもないだろうに。
この差はなんだ、とも言いたくなる。