第7章 柱《参》✔
「蛍ちゃん、少しは元気出たみたい?」
「野外で騒ぐと笠を落とすぞ。…見えた、あそこだ」
「あっ本当にあった! 冨岡さんの言う通りね!」
肩を落とす蛍の気など露知らず。
北へと柱二人が林沿いに進めば、やがて林道に沿って建てられた建物が見えてきた。
人が何十人でも入りそうな、杏寿郎の道場のような広さを持つ。
蛍が想像していたよりもずっと立派な建物である。
「蛍ちゃん、ゆっくり寛いでいいからねっ」
足早に広い玄関まで辿り着いた蜜璃が、一目散にと扉を開ける。
しっかりと蛍は抱いたまま、ガラリとそれは威勢良く。
そして目が合った。
「うわっ!? は、柱の甘露寺さん!?」
「えっと…?」
全身黒尽くめの男と。
あたふたと慌てている男を、蛍は笠の下からまじまじと見やった。
まるで舞台に立つ黒子のように、体は当然の如く、顔も被り物と口布で隠しており目元しか見えない。
きょとんと見ていたのは蜜璃も同じで、男は慌てたまま垂直に腰を追った。
「お、オレは先々月鬼殺隊に入隊したばかりの、その、新人で…っ三重と言います!」
「そうなの! 三重さん、初めまして。私は甘露寺蜜璃。名前を覚えていてくれて嬉しいわっ」
「はうっ!」
にっこりと笑いかける蜜璃に、バキュン!と何かに打たれたような気配が響く。
そのまま胸を押さえよろける三重という男に、蛍は思わずジト目を向けた。
初対面で相手を惚れさせるとは流石恋柱、と言うべきか。
「三重さんも休憩していたの?」
「ああいえ、オレは休憩と言うより…」
「三重、何やってんだ。次の議題に行くぞ…って蜜璃様!?」
「あ、こんにちは」
「ほあっ!」
ドキュン!と今度はより重々しい二度目の銃撃音。
今度は襖の向こうから顔を覗かせた男が膝をつく。
「もしかして此処、隠さん達が使ってる最中なのかしら…」
「…ふぐ…?」
「あ、そうね。蛍ちゃんは初めて見るものね。あの帽子と口布をした隊服姿の人達が、今日話した"隠"さんよ」