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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第26章 鬼を狩るもの✓



「私が、守るよ。杏寿郎のこと。最期まで守ってみせるから」


 杏寿郎の胸に顔を埋めたまま、表情は見えない。
 愛を囁きながら、切ない声で決意を告げる。
 蛍の儚いその姿に、杏寿郎はそっと槇寿郎を伺い見た。

 目は合ったものの、自分は何も語らないとばかりに突き刺した日輪刀を退き抜き、槇寿郎が腰を上げる。


「父上」

「話すことはない」


 その背を呼び止めるも、やはり秒で切り捨てられた。
 仕方なしにと再び胸に抱き付く蛍へと視線を戻し、握っていた日輪刀を畳みに置く。


「蛍。一体何が」

「うん。…だいすき」

「ぅ、うむ」

「世界でいちばん、だいすきだよ」

「…うむ」


 慣れない蛍の感情の言葉の嵐に、珍しく押された杏寿郎は赤い顔のまま咳ばらいを一つ。
 包み込むように華奢な体を抱き締めると、やんわりと顔を綻ばせた。


「俺の方こそ。誰がなんと言おうと君を守る。この世界から救い上げてみせる」


 照れ臭そうにはにかんで。
 揺るぎない瞳で見つめる。


「俺の最愛のひと」




















「……」


 見たことのない幸福そうな顔で、愛を紡ぐ。
 そんな息子の姿を目の端で捉えて、槇寿郎は踵を返した。


「血ィ」


 部屋を出て、通り過ぎようとした。
 千寿郎の隣に立っていた実弥に、そう声をかけられるまでは。


「付いてますね」


 鋭い実弥の観察眼は、槇寿郎が握る刃に微かに付着した血痕を見逃さなかった。
 訊かずともわかる。蛍の血だ。


「斬ろうとしたんですかィ。アイツの頸を」

「……」

「返答によっちゃァ、俺も黙ってられねェ」


 蛍を守る義理はないが、曇りなき眼で悪鬼かどうか見定めると、お館様と約束している。
 悪鬼の顔を見せていない今の蛍を斬ることは、例え元炎柱であっても許せはしないのだ。

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