第26章 鬼を狩るもの✓
おろおろと立ち尽くす千寿郎に構うことなく、実弥と槇寿郎の視線が混じり空気が張り付く。
先に視線を逸らしたのは、槇寿郎だった。
剥き出しの刃を鞘に戻すと、再び背を向ける。
「答えをまだ聞いてません」
追いかけてくる実弥の問いに、足を止める。
思い出すのは、脳裏にこびり付いて離れないあの光景だ。
組み敷き脅した、鬼と交わした約束。
そこで見た、涙と決意。
確かにその時、槇寿郎の刃は蛍の頸の皮膚を裂いた。
頸を断ち切るまでに至らなかったのは、その時点で槇寿郎の中で答えが出たからだ。
「…もう斬っただろう」
目も当てられない、息子の甘い顔は見えど。此処に生命を脅かす鬼の気配はない。
童磨を倒した時に、既に答えは出ていたのかもしれない。
分厚い雲が薄れていくように。
淡いシャボン玉に変わり、空を晴らして駒澤村を照らしていく。
木漏れ日のような月の光が、淡く差し込む世界。
立ち尽くす村人達と同様に、魅入っていた。
視界を覆うすべては、ただただ優しく。
「〝鬼〟の頸なら」
悪しきものなど、何処にもなかったのだから。