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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第26章 鬼を狩るもの✓



「……何故だ」


 今一度、問いかけていた。


「俺は、お前の頸を狩ろうとした者だぞ」


 蛍を迎え入れた杏寿郎や、慕う千寿郎相手ならその決意も頷ける。
 なのに何故、そこまでの思いを自分に向けられるのか。

 槇寿郎には理解できなかった。


「お前が見てきた数多の人間と同じだ。鬼と人とは相容れない。そう感じている男を、何故家族にと望める」

「…槇寿郎さんは、怖い、です」

「……」

「こうして、話をすることも…怖い」


 いつまた頸を斬られるか。
 一度植え付けられた恐怖は、簡単に払拭できるものではない。

 ならば何故、と更に目で問いかけてくる槇寿郎に、蛍は顔を引き締めた。


「でも、それ以上に怖いものを、知っているから。失くすことの方が、何十倍、何百倍も痛い。体を突き破られて、心を抉られる。その痛みが、残り続けるものだから」

「……」

「それなら、みっともなくても、縋る方が、まだいい。縋っていたい」

「…ッ」


 真一文字に結ばれていた槇寿郎の口角が、ぐっと下がる。
 奥歯を噛み締めて、声にならない声を上げた。

 蛍のその思いは、痛い程に理解できた。

 心の半分を失くしてしまったような、途方もない虚無感。
 生気を宿せない体は、毎日のように悲鳴を上げ続ける。
 誰にも届かない声で。


「今ここで槇寿郎さんを失ったら、杏寿郎も、千くんも、同じになってしまう」


 酒を酌み交わした、あの夜もそうだ。
 槇寿郎の声なき声を拾い上げたのは、蛍だけだった。


「…私も…何も感じない訳じゃ、ない、です」

「…お前が?」

「す、少し、は…」


 ごくりと生唾を飲み込みながら、恐々と告げてくる。
 偽りのない蛍の本音に、ふ、と槇寿郎の口元が微かに緩んだ。


「本当に、馬鹿正直だな」

「…すみません」


 晩酌の夜にも、同じような言葉を交わした。
 槇寿郎と今後も酒を酌み交わしたいと望むのは、あわよくば自分を受けれて欲しいから。
 そう、正直に告げた蛍に向けて。

 あの時は、人間だと思っていた。
 蛍のその素直さに、嫌気など感じなかった。

 それよりも、瑠火とは違う型をした芯の強さを見た気がしたのだ。

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