第26章 鬼を狩るもの✓
「…何故だ」
頭で考える前に、問いかけていた。
「何故そこまで、俺に拘る。杏寿郎が大事なら、あいつらだけ見ていればいいだろう。杏寿郎の為と言うなら余計な世話だ。俺に関わるなっ」
「っ…杏寿郎の為だけでは、ありません。前にも言いました。私は、槇寿郎さんも含めた、このおうちが好きなんです。四人で、家族になりたいと思ったんです」
「鬼が人間と家族になど──!」
「ッ知っています!!」
いい加減気付けと言わんばかりに荒ぶろうとする。
槇寿郎のその言葉を、初めて鋭い蛍の啖呵が遮った。
「散々言われてきました! 柱にも、鬼殺隊にも、鬼を知る人には誰だって…! 鬼本人にも言われました! 鬼と人とは相容れない!! そんなこと知っています!!」
杏寿郎にさえも、最初はそう諭されたのだ。
常に優しく迎え入れていた童磨も、そこだけは譲らなかった。
「誰に言われなくたって、私が知っています…! それでも、望んでは駄目ですか…っ? 無理だと周りが言うから、諦めなければならないのですか…ッ」
そんなこと、とうの昔から知っている。
諭されなどせずとも、周りの世界が生きることから許さなかったのだ。
人間界で鬼は悪。
排除すべき害悪でしかない。
そんなことを口酸っぱく説教されたところで、全てが今更だ。
それらの言葉を飲み込んでいたのなら、既にここに彩千代蛍という存在はない。
「それが世界の理と言うのなら、私は従いません」
涙を称えた瞳が、"色"を灯す。
「鬼という時点で、私はこの世の理から外れているから。従う気はありません」
鮮やかな緋色とは違う、燃えるような微かな揺らぎ。
「私の道は、私が作ります。そこに壁があることなんて百も承知。無理だと思うなら、触れなくていい。でももし、その道が作れた時に。もしまた、槇寿郎さんとこの距離で触れることが許されたなら──」
似てはいない。
なのに錯覚した。
「共に、踏みしめて下さいますか」
煉獄家に嫁ぐことを決めた、若き日の瑠火の眼差しと。