第26章 鬼を狩るもの✔
「私のことは、嫌っていて、いいです。好きにならなくて、いい。ただ、生きさせて下さい。杏寿郎の隣で、生きていたい…ッ」
更に刀が押し返される。
上半身を起こし、片膝を立てた蛍が声を上げる。
見上げる瞳には、先程まで印象付けていた弱さは消えていた。
初めて蛍と出会った時に、凛とした声で告げられた時と同じだった。
あの時は人間に擬態していた為、暗い色の瞳をしていた。
その奥底に見た気がしたのだ。
燃えるような強い揺らぎを。
あの時見た揺らぎは、この鮮やかな緋色の名残りだったのか。
そう思わせる程、槇寿郎の息を、視線を、動きを一瞬止めた。
「ッなら…!」
「っ!?」
それも刹那の瞬きのみで、突如、槇寿郎が刀を退く。
いきなり見失った対象の力に、蛍がバランスを崩した。その隙を見逃さなかった。
蛍の首根っこを掴み、どしんと布団に太い腕で押し付ける。
「げほ…ッ!」
「約束しろッ」
軌道を止める程ではなくとも、動きを制限させるだけの力で蛍の頸を締め上げながら、槇寿郎は呻るように告げた。
「死ねないと言うのなら死ぬな。あいつより先に死ぬことだけは絶対に許さん…ッ」
先程まで命を狩ろうとしていた者の台詞には思えない。
耳を疑いながら、蛍は苦しげに槇寿郎を見上げた。
「あいつは、お前が鬼として死ぬのなら己の命を切り捨てると言った」
「……ぇ…」
「鬼として死んだお前が地獄へ堕ちるなら、共に堕ちると言ったんだ」
耳を疑うどころではない。
世界の音を失くしたように、槇寿郎の声しか届かなくなった。