• テキストサイズ

いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第26章 鬼を狩るもの✔



「私のことは、嫌っていて、いいです。好きにならなくて、いい。ただ、生きさせて下さい。杏寿郎の隣で、生きていたい…ッ」


 更に刀が押し返される。
 上半身を起こし、片膝を立てた蛍が声を上げる。
 見上げる瞳には、先程まで印象付けていた弱さは消えていた。

 初めて蛍と出会った時に、凛とした声で告げられた時と同じだった。
 あの時は人間に擬態していた為、暗い色の瞳をしていた。
 その奥底に見た気がしたのだ。
 燃えるような強い揺らぎを。

 あの時見た揺らぎは、この鮮やかな緋色の名残りだったのか。
 そう思わせる程、槇寿郎の息を、視線を、動きを一瞬止めた。


「ッなら…!」

「っ!?」


 それも刹那の瞬きのみで、突如、槇寿郎が刀を退く。
 いきなり見失った対象の力に、蛍がバランスを崩した。その隙を見逃さなかった。
 蛍の首根っこを掴み、どしんと布団に太い腕で押し付ける。


「げほ…ッ!」

「約束しろッ」


 軌道を止める程ではなくとも、動きを制限させるだけの力で蛍の頸を締め上げながら、槇寿郎は呻るように告げた。


「死ねないと言うのなら死ぬな。あいつより先に死ぬことだけは絶対に許さん…ッ」


 先程まで命を狩ろうとしていた者の台詞には思えない。
 耳を疑いながら、蛍は苦しげに槇寿郎を見上げた。


「あいつは、お前が鬼として死ぬのなら己の命を切り捨てると言った」

「……ぇ…」

「鬼として死んだお前が地獄へ堕ちるなら、共に堕ちると言ったんだ」


 耳を疑うどころではない。
 世界の音を失くしたように、槇寿郎の声しか届かなくなった。

/ 3624ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp