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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第26章 鬼を狩るもの✔



「これを」

「え…?」

「一度君に預ける。すぐに取りに戻るから、それまで持っていてくれ」

「で、でも…こんな大事なものを…」

「なに、問題ない。悪鬼の気配はもう何処にもないし、傍には不死川もいる。心強い男だ」


 杏寿郎の言うことも頷けたが、問題はそこではない。
 日輪刀は、鬼殺隊の剣士にとって命ともなる必要不可欠なもの。それを預けるなど一体どういう了見か。
 問いかけようとして、見下ろす杏寿郎の瞳に蛍は口を閉じた。

 慈愛ある眼差しが物語っている。
 問題はないと。


「父上。俺の魂を、蛍に預けます」


 すくりと腰を上げて、振り返った杏寿郎が笑う。


「体を芯まで温めて戻りますので。それまでは蛍のことを、お頼みします」


 一礼し、蛍へと一瞥し、静子達にも頭を下げて去っていく。


「こっちは心配すんなァ」

「あ、お湯…っ急いで沸かします! 姉上、すぐ戻りますからッ」


 続く実弥が後頭部をぐしりと片手で掻きながら、ぼそりと蛍に告げていく。
 慌てて頭を下げた千寿郎もまた、心配そうな視線を蛍に最後まで残し駆けていった。

 柱組が去れば、途端に静かな部屋となる。


「静子さん達も、客間で休んでいて下さい」

「…お言葉に甘えさせて頂きますわ。八重美さん」

「はい。蛍さん、お大事になさって下さいね」

「ありがとう、ございます」


 深々と頭を下げる静子と八重美も部屋を後にすれば、残されたのは敷かれた布団に寝かされた蛍と、部屋の中心で佇む槇寿郎のみ。
 与助は医者が来るまではと、何もできないように庭の蔵に放り込んである。

 実質、二人だけなのだ。


(ど、どうしよう…)


 沈黙が重たい、などという悠長な悩みではない。
 この場に一秒だっていたくない。
 次の瞬間には、頭と胴体とが切り離されてしまいそうな恐怖が蛍を襲う。

 折れた指がようやく治った手で、杏寿郎の預けていった日輪刀を手繰り寄せて胸に抱く。
 ごくりと、生唾を飲み込んだ。


「…ぁ…あの…」


 恐る恐ると、先に声をかけたのは蛍だった。

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