第26章 鬼を狩るもの✓
「この家の主は俺だ。俺のことは俺が決める」
「す、すみません…」
見上げる瞳は鬼のものだというのに、始終怯えている。
枕元まで歩み寄れば、びくりと寝そべる体が強張った。
蛍の腕に抱かれた日輪刀に、自然と顔が険しくなる。
杏寿郎は「魂を預ける」と言った。
蛍の傍に己の意志を置いていくと、静かに主張したのだ。
(小賢しい真似を)
険しい顔のまま、蛍の体に一通り目を通す。
日輪刀を握り締める手は完治したようだが、手首まで生えた片腕と、膝頭まで生えた片足は未だ機能していない。
「…痛みはないのか」
「え?」
「手足を失っておきながら、そこまで喋る余裕があるなど」
苦痛に歯を食い縛りながら話しているようには見えない。
疑問を抱いたのは、今まで鬼の苦痛になど目を向けてこなかったからだ。
鬼は斬首して然るべき。
そこに伴う痛みなど、知る必要もなかった。
「ぃ…痛みは、あります…でも、もう血も止まっているし、切断面も閉じているから…耐え切れない程じゃ、ありません…」
辿々しく蛍が告げる通り、切断された手も足も、生々しい肉を見せている訳ではない。
断面図は肌が丸みを帯びて包み込み、その部位だけ失くした人の体の造りのようにも見えた。
血の気が退いた顔は真っ青だが、汗は滲んでいない。
じわじわと生命力を上げていく体は、死とは程遠い。
「そうか。……やはり人ではないな」
ぼそりと槇寿郎が放った一言は、余りにも小さく。
辛うじて鬼の耳だからこそ聞き取れた。
「え…?」
刹那、視界にぎらりと鈍い光が宿った。
──ギンッ!!
鋭い鉄が火花を上げる。
大きく見開いた蛍の目前で、それはぎらぎらと殺気を放っていた。
「ッ…!」
躊躇なく振り下ろされた槇寿郎の刃は、蛍の脳天を狙っていた。
垂直に落とされた刃が牙を剥かなかったのは、杏寿郎の日輪刀がそれを受け止めたからだ。
「動ける気力はあったか」
抜刀された刃を、鞘のままで受け止めたのは蛍自身だった。
抱いていた日輪刀で咄嗟に受け止めたが、握り支える片腕はカタカタと震えている。