第26章 鬼を狩るもの✔
「お前は風柱と風呂に入ってこい」
「は…風呂、ですか?」
「大方、相手の鬼は氷を操る術を使ったんだろう。それで負傷したのなら、一度体を温めるべきだ」
「それでしたら問題は」
「問題があろうがなかろうが、さっさと行って来い! その後はお前らも医者の診察を受けろ!」
いくら今は問題なく活動できていても、一度術による攻撃を受けた身。後から支障をきたす可能性は十分にある。
その時になってからでは遅いのだ。
「千寿郎! 湯を沸かしてこいつらを放り込めッ!」
「えっ!? わ、私がですかッ?」
「あの男を放っておく訳にも」
「あそこまで痛め付けられて、縛り上げられた男が逃げ出せるはずがあるか! これ以上つべこべ言うなら俺が放り込むぞッ!!」
今度は実弥の意見を遮り、主張する。
確かにこの場では蛍が一番の負傷者だが、与助も一般人となれば重症だ。
その上で実弥の手により、身動きが取れないように縛り付けられている。
監視も何もないと主張する槇寿郎の意見も尤もだった。
「む、ぅ。ですが…」
それでも杏寿郎が譲らなかったのは、傍についた蛍にある。
我が家だから安全だとは思っていない。
槇寿郎の手により、一度その身を焼かれているのだ。
いくら敷居を跨ぐことを許したと言っても、槇寿郎の蛍を見る目は変わらず鋭いままだった。
「その鬼のことなら心配いらん。放っておいても勝手に治るだろう」
「…確かに蛍の体は他の鬼と同様、再生能力を持ち得ていますが万能という訳ではありません。限界まで術を使用した結果、治りも遅れている。…傍についていたいのです。せめて痛みが止まるまで」
「はッ、医者でもないお前がいたところで痛みが和らぐ訳もないだろう!」
「ぅぐ」
正論と言えば正論。
胸に父の言葉をどすりと受け止めながら、杏寿郎は迷うように視線を揺らした。
ここで蛍の傍を離れれば、父の刃が向かないとも限らない。
だからと言って八重美達に託せもしない。
千寿郎も、風呂場へと駆り出されてしまった。
「…蛍」
致し方ない、と息を零す。
ゆっくりとベルトから日輪刀を鞘ごと抜き取ると、杏寿郎はそっと蛍の傍らに寄せて置いた。