第26章 鬼を狩るもの✓
ゆっくりと、蛍の体が柔からな布団へと落ちる。
「き、杏寿郎…血が」
「気にするな。それくらいのこと、誰も咎めない」
布団に己の血が付着してしまうことを蛍が危惧すれば、あっさりと杏寿郎に笑い返された。
そんなことよりも、と寝かせた蛍の額を、優しく撫で付ける。
「蛍は体を治すことだけに専念してくれ。後のことは、何も気にしなくていい」
「…うん…ありがとう」
「礼を言うのはこちらの方だ。蛍のお陰で、村人達は全員無事だったんだからな」
屈託なく笑いかける杏寿郎に、つられるように蛍の顔にも明るさが戻る。
しかしそんな二人を、訝し気に見る目もあった。
「槇寿郎さん。鬼、というのは一体…」
「…見ての通り、彼女のことです」
「!? ご、冗談を」
「本当です、お母様。蛍さんは、鬼なのです」
ここまで赤裸々に杏寿郎が口にしていれば、鬼に詳しい静子が気付かない訳がない。
案の定驚きを隠せない静子とは対照的に、八重美は現実を受け止めている様子だった。
経緯はわからないが、杏寿郎を慕っている八重美のこと。彼の思いに耳を傾けた結果なのかもしれない。
「静子さん、八重美さんは、一先ず客間へ。医者を呼びます。八重美さんは一通り診てもらいなさい」
「ですが槇寿郎さん…鬼、というのは…」
「言いたいことはわかります。だがその問題は、一先ず私に任せて頂きたい。静子さんは、八重美さんのことを頼みます」
「…わかりましたわ」
問い詰めたい気配は伝わる。
それでも全て呑み込み静かに下がる静子は、己の立場も理解していた。
「では俺は蛍が完治するまで傍についています。医者は必要ありませんが、何か不都合があるやもしれませんので!」
「待て」
理解していないのは、この息子の方だ。
はきはきと告げる杏寿郎に、太い眉を寄せながら槇寿郎は待ったをかけた。
「お前は風柱と風呂に入ってこい」
「は…風呂、ですか?」
「大方、相手の鬼は氷を操る術を使ったんだろう。それで負傷したのなら、一度体を温めるべきだ」
「それでしたら問題は」
「問題があろうがなかろうが、さっさと行って来い! その後はお前らも医者の診察を受けろ!」