第26章 鬼を狩るもの✓
慣れない様子で帰りを告げる蛍に、涙を耐えながら迎える千寿郎。
そんな二人を離れた所から見つめていた八重美は、自然と顔を綻ばせた。
「下ろすぜェ、」
「! は、はいッこんな所まで申し訳ありません…っ不死川様もお怪我を負った身なのに」
「大したことねェよ。歩かせるより担いだ方が早かっただけだァ、気にすんな」
不意に足が地面へと着く。
帰りを急ぐ杏寿郎の足には、八重美では追い付けない。
その為実弥の肩に担がれる羽目になったが、思えば何から何までこの風柱には世話になっていた。
言葉の通り、けろりとした実弥にとって八重美は担いでも担いでいなくても変わらない。
寧ろこのまま歩かせては、ふらりと風に吹かれやしないか。
そんな幸薄さを残す八重美を見ていれば、急にその体は傾いた。
「八重美…ッ!」
足元がふらついた所為ではない。
掻き抱くように抱きしめた女性がいたからだ。
「ぉ、お母様…っ?」
「怪我は!? 無事ですのッ!? 貴女鬼に…ッ鬼に何かされたの…!?」
「わ、私は無事です。杏寿郎様と、不死川様が助けて下さったので…蛍さんにも」
「本当に!? こんなに顔を汚して…ッ」
「これは、空から落ちる際に」
「落ちるッ!?」
激しい剣幕で捲し立てる八重美の母、静子。
その様には耳も塞ぎたくなったが、それだけ八重美を心配していたのだろう。
やれやれと肩を落として、実弥は残された与助を背負い直した。
「痛みはどこにもないのッ? ああ、貴女本当に…っ本当に、」
わなわなと震える唇が、感情を噛み締める。
「無事でよかった…ッ!!」
涙を称え再度強く抱きしめる静子に、八重美の目が見開く。
常に冷静沈着だった母が、こんなにも取り乱した姿は見たことがない。
鬼殺隊を支える身として、命すら賭ける覚悟を持っていたあの母が。
息を切らし、着物を乱し、土足で駆け寄り、羽交い絞めにも似た抱擁を向けてくる。
痛くて、きつくて、苦しくて。
「…ッ」
視界が滲む程に、熱くなった。