第26章 鬼を狩るもの✓
「その、すみません…これ、借りっ放しで…」
そう言って蛍が頭を下げたのは、そこに飾られたものを示すため。
白いリボンの髪飾りだ。
「八重美さんのものだとわかって、いたんですが…ょ、汚してしまったかもしれません…」
鏡のないこの場では確認しようがないが、蛍の予想通り、激しい戦闘や着地によりリボンは土で汚れてしまっていた。
「…いいえ。身に付けて下さってありがとうございます。でなければ、失くしてしまっていたかもしれません」
しかしそこに返す八重美の感情には、棘など一つもない。
「その髪飾りは…」
そこへ不意に会話を交えたのは、杏寿郎だった。
蛍の頭を飾るリボンに、何かを思い出したかのように目を止める。
「やはり。あの時の髪飾りですね」
「杏寿郎様…もしや、憶えているのですか…?」
「はい。静子殿に告げられた時はすぐに思考が回りませんでしたが。蛍、外すぞ」
蛍の頭から髪飾りを取り、まじまじと見つめる。
そこへ八重美の感嘆にも似た声が重なり、蛍は自然と瞳を伏せた。
見たくないと思ってしまったのは、正直な気持ちだ。
やはりその髪飾りは、杏寿郎から八重美へ送られたものなのだ。
「思い出しました。確か、吉屋の卸売りで」
「そうです。あの時の髪飾りです」
「しかし汚れてしまいましたね。致し方ないことですが…丹念に洗えばどうにか」
「いいえ、大丈夫です。私がお手入れをしますから」
「そうですか? では」
あっさりと髪飾りを手渡す杏寿郎に、大事そうに両手で受け取る。
八重美のその目が、ふと蛍を捉えた。
そろりと伺うように上がってきた目が、ぱちりと八重美と合う。
途端にまた慌てて下がる。
人にはない、縦に瞳孔の割れた鮮やかな緋の瞳。
鬼のものであるのに、可愛げのあるものにも見えて八重美は口元を緩めた。
わかるからだ。
その瞳の意味も、感情も。
同じ相手を慕ったからこそ。
「蛍さん」
「ぇ? は、はい」
「この髪飾りは、杏寿郎様が選んで下さったのです」
「…はい」
「私が、お訊きしたので」
「……はい?」