第7章 柱《参》✔
「あの林を抜けた所に待機所があったはずだ。一度其処で足を休めよう」
「え?」
「不死川の血と、この日光の中では彩千代ももう限界だ」
「そ、そうなのっ!?」
はわあ!と両手を口に当てて驚愕する。
てっきり実弥にぞんざいに扱われた所為で落ち込んでいたと思っていた予想は、違っていたようだ。
燦々(さんさん)と降り注ぐ太陽は、空の一番真上にきている。
一日で一番日差しが強くなる時間帯に、何度も外に放られるのは鬼にとっては苦行に他ならない。
「蛍ちゃん具合悪かったの!? ご、ごめんね気付かなくて! 早く休みに行きましょ!」
「っ…」
「大変! 凄くふらついてるじゃない! 私がおぶって行きましょうか!?」
「おい」
「いいわよね? いいわよね!? さぁ蛍ちゃんしっかり掴まってて!」
「っ…!?」
「おい、甘露」
「冨岡さんも早く!!」
慌てた蜜璃が蛍の両肩を掴めば、ふらふらと覚束無く体は揺れる。
蜜璃の尋常でない腕力が成せる結果だったが、蛍以上に青褪めた彼女が気付くこともなく。
義勇の制止も聞かずに、即座に蛍を抱き上げると林の中へと走り去った。
「何処かしらっ!? 林はとっくに抜けたけど…!」
「ふ、ふぐ…」
「蛍ちゃんは何もしなくていいから! 待ってて、すぐ休める場所を探すからね…!」
がっちりと蛍を姫抱きしたまま、笹の葉を頭に付けた蜜璃が辺りを忙しなく見渡す。
此処は広い鬼殺隊本部の土地。
故に柱の屋敷以外にも、定期的に休める休憩所は建ててある。
しかし義勇の言っていた待機所とは何処か。
見当たらないそれに、更に激しく蜜璃の頭が回転した。
バササッ
その頭に一羽の鳥が舞い降りた。
ヨタヨタと危なっかしい足取りで、明るい蜜璃の頭にちょこんと乗ったのは真っ暗な体の鴉。
「オ嬢サン、道ヲ間違エナサルナ。林ハ北ノ方角ヲ抜ケタ方向。其処二待機所ハアル」
「この鴉は…義勇さんの鴉ねっ」
蜜璃の鎹鴉に比べれば、羽の艶も声の張りも随分と劣る。
長い間義勇の共として戦場を駆け抜けてきた老鳥だ。