第7章 柱《参》✔
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さくり、さくりと草履が土の道を食む。
「蛍ちゃん…そのぅ…大丈夫?」
「…ふく」
「そ、そう! ならよかった!」
口枷を付けている為話せはしないが、問い掛ければ小さな頷きは返ってくる。
来た道を戻りながら、蜜璃は手持ち無沙汰に持っていた風呂敷を万歳するように突き上げた。
向かう時に比べ大分萎んだ風呂敷の中には、しかしまだおはぎは残っている。
実弥が拒否した蛍手製の抹茶おはぎだ。
(でも全部持って帰れなかったわ…ああ、あのおはぎも握り潰されちゃうのかしら…折角蛍ちゃんが作ってくれたのに……私が食べたかった!!!)
半ば逃げるように風柱邸を出てきた。
その最中、蛍が部屋に広げた風呂敷の抹茶おはぎの回収までには手が回らなかった。
大層勿体無いことをしたと思わず頭を抱えてしまう。
そんな蜜璃を視界にも入れることなく、義勇の後ろをとぼとぼと来た時のように袖を握り蛍がついて歩く。
市女笠の中から覗く顔は俯いており、足取りも遅い。
行きは急かしていた義勇も今は文句一つ言わない。
その静寂が尚の事蜜璃を凹ませた。
先程から何度も心配して声を掛けているが、蛍は頷くことしかしない。
口枷をしているのだから仕方ないことだが、まだその体に実弥の血の効果は続いているのだろうか。
「あのね、蛍ちゃん。あまり落ち込まなくていいからね。不死川さんの血は、とっても希少な稀血なの」
返事はなかったが、義勇の裾を握る蛍の手にぴくりと力が入った。
「稀血のことは、以前見たから知ってると思うけど…不死川さんの血は、その中でももっと特殊なのよ。普通の鬼なら嗅いだだけで、歩くこともできなくなるくらい。だから蛍ちゃんは凄いと思うっ」
「……」
「っね、ねぇ冨岡さん!」
それが励ましになっているのかどうか蜜璃にも計り兼ねたが、今更言い直しもできない。
賛同を求めるように話を振れば、義勇は無言でゆっくりと進んでいた足を止めた。
ようやくその目が蛍へと向いたかと思えば、辺りの景色へとすぐに移る。
頸を傾げる蜜璃の前で徐に義勇が指差したのは一つの林。