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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第26章 鬼を狩るもの✓



「お願い」


 沈黙を続ける杏寿郎に、ゆっくりと蛍の視線が上がる。
 重なった瞳は、縦に割れた鮮やかな緋色。
 鬼の瞳だ。


「…わかった」


 そこに答えを見出せる訳でもない。
 静かに呼吸を繋ぐと、一つ頷いて返した。


(蛍の体には、多少とも不死川の稀血が効いているはず。…万が一の時は)


 実弥に視線を向ければ、一度だけ目が合った。
 それで十分、互いの意思は通ずる。

 何かあれば全力で止める。
 それだけだ。


「オイこら。柚霧が話があるんだとよォ」

「そ、それより医者んとこに…」

「手足捥がれたアイツが話すつってんだ。相手くらいしやがれェ」

「い"ッ!」


 ドンと実弥に乱暴に押された与助が、よろりと前に出る。
 其処へ蛍を抱いた杏寿郎が歩み寄った。


「目の前、で…下ろして、欲しい」

「わかった。支えていよう」


 片腕を庇いながら立つ与助の前に、細い片足が着く。
 よろけそうになる蛍の肩を抱いて、杏寿郎が支えた。

 怯え伺う目と、朧気に見る目。


「…柚霧…」


 最初に口を開いたのは、息も絶え絶えな与助だった。


「す…すまねぇ…謝ったって、許されるとは思っちゃいねぇ…でも、気付いたんだ。オレが、オレ達が、お前にしてきた、ことの酷さに」

「うるさい」


 辿々しく告げる与助の言葉は、一蹴された。
 静かに吐き捨てた蛍に、びくりと気弱な声が止まる。


「そんな謝罪、要らない…そんな言葉で、今更、姉さんは戻ってこないし…私も、人間には戻れない」

「…っ」

「それだけのことをしたんだ。私は、一生、あんたを許さないし、今すぐにでも殺したい」

「ひィッ」

「それだけのことをしたんだッ」


 折れた指が、無造作に与助の胸倉を掴む。
 ぐ、と蛍の肩を掴む杏寿郎の手に力が入ったが、それ以上の阻止はしなかった。

 まだ、蛍は牙を剥いていない。

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