第26章 鬼を狩るもの✓
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「ふぅ……無事か? 蛍」
「…ん」
夜空を仰ぎ見る体制で、腕の中を伺う。
呼吸を整えながら目を向ければ、頷く蛍に杏寿郎はほっと頬を緩めた。
「皆も無事かッ!?」
「お陰様でなァ!」
「うむ! 狙いを定めて下りられてよかった!!」
闊達な声で顔を上げる杏寿郎の頭には、至るところに枯れた藁。
頷く蛍の頭にも、跳ね起こす実弥の体にも、皆が藁塗れとなっている。
秋めく季節。何処の田んぼでも藁干しが開始される。
藁の束を幾重も重ねて、見た目の通りこんもりと山のような干場を作るのだ。
駒澤村でも例外ではなく、田んぼに着地した杏寿郎達にとって、藁干しは貴重なクッション代わりとなった。
誰も落下による怪我はしておらず、杏寿郎が安堵の息をつく。
「崩してしまった藁干しは、後日直すとして。蛍達の怪我の手当てを急がねばな」
「達ってことは、コイツもかァ?」
「いでででッ! さ、触らねぇでくれ…!!」
「怪我には触れてねェだろうが。テメェはいちいち大袈裟なんだよォ。ガキか」
「ンなこと言っても腕が折れてんだ! アイツに掌だって砕かれて…!」
「……」
「ひッ」
実弥が雑に肩を掴んで主張したのは、松平与助。
蛍を抱いて藁干しから下りながら、杏寿郎はじっとその男を目で捉えた。
睨むでもない。目を合わせるでもない。
ただ暗闇でも光を灯す双眸が、じっと射貫くように見ている。
その目に捉えられるだけで、与助の体は芯から震え上がった。
「…その男の手当ても、だ。その後、然るべき場所に突き出す」
「……杏寿郎」
「ん?」
「下ろして、くれる?」
「だがその足では、まだ十分に歩けないだろう?」
「…なら、連れていって、欲しい」
「何処へ?」
「与助の、ところ」
ぴたりと、杏寿郎の口が止まる。
腕に抱いた蛍は、満身創痍な状態だ。
与助の前に連れていったところで、二人の柱の目を掻い潜りその命を奪えるとは思えない。
(…万が一とも考えられる)
しかし絶対はないのだ。
蛍も鬼だ。
テンジのように、感情が爆発すれば手負いの杏寿郎達では抑えられるかどうかもわからない。