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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第26章 鬼を狩るもの✓



「頼んだ!」

「ったく、しゃあねェなァ!」


 朗らかに笑いかけてくる杏寿郎の眩しい笑顔には、悪態をつきたくても気が削がれてしまう。
 それに今は、あーだこーだと運び手の話でひと悶着している場合ではない。
 蛍は今にも倒れそうな程、顔から血の気が退いている。


「なら二人は俺が運ぶわ」

「しかし不死川も無傷では」

「一人や二人、大して変わんねェよ。それに怪我を負っちまったしなァ。多少はそいつにも俺の血が効いてるはずだ」


 実弥の血液は、特殊な稀血である。
 僅か数滴でさえも、鬼を酩酊させてしまう。

 満身創痍の蛍が稀血に酔ってしまえば、鬼の本能が出てくる可能性もある。
 鬼を弱らせることもできるが、理性も飛ばしてしまう代物なのだ。


「柚霧は任せたぜェ」

「…承知した」


 距離を取りながら八重美と与助の下へ向かう実弥を見送り、杏寿郎は今一度蛍へと視線を戻した。


「蛍。俺の合図で術を解除することはできるか?」

「やって、みる」

「よし」


 日輪刀を片手に握ったまま、蛍の膝裏と背中に腕を添える。


「抱き上げるぞ。体を影から離しても問題はないか」

「…ん」

(怪我がまだ再生の兆しさえ見せていない…限界まで術を使った為か)


 本来なら指を折られたくらいの傷、完治していてもいい頃合いだ。
 しかし蛍の片腕は今だ失ったまま、折られた指も治っていない。
 寧ろ腕の至るところから少量の出血が見え、悪化していることがわかる。
 無理矢理に術を発動し続けた結果なのだろう。

 影で造り上げられていた片足も、いつの間にか消えていた。
 見た目にも酷い有り様の蛍を、杏寿郎は殊更優しく扱った。

 少しの振動も伝えないように、羽毛に触れるようにそっと抱き上げる。


「不死川」

「いつでもいいぜ」

「…蛍。君の呼吸で構わない。今から十数える間に、術の解除を頼む」


 こくりと頷く蛍の頭が、躊躇いがちに杏寿郎の肩に触れる。
 力無く寄り添うようにして、ぽそぽそと語りかけた。

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