第26章 鬼を狩るもの✓
爆破でもしたかのような、凄まじい衝突に黒煙が舞い上がる。
衰えることなくその中から飛び出した龍の口が、バツンと何かを食い千切った。
ぼろりと消し炭のように落ちていく。
それは上半身をほとんど失くした童磨の姿だった。
頸のすぐ下から、脇腹までの体が消えている。
本当に龍に喰われたかのように、根こそぎ焼かれ抉り取られていた。
「ごふッ」
目を丸くした童磨の口から、どろりと大量の血が噴き出した。
「っし!」
抉り取る形で、頸を斬り落とした。
鬼の斬首は死に直結する。
実弥が勝利を確信した時、力なく落ちゆく頭だけの童磨が──ぎょろりと、その目を龍に向けた。
ふ、と影がかかる。
龍の中で見上げた杏寿郎の視界に映り込んだのは、巨大な掌だった。
ズドンッ!!
龍の胴体を断ち切るように、素早い手刀を振り下ろしたのは氷の菩薩だ。
「(なんでまだ動きやがる!?)往生際の悪ィ…ッ最期の足掻きってやつかァ!」
咄嗟に駆け出す。
実弥の予想通りに、頸を落としても尚、体だけで殺しにかかろうとする鬼はいる。
それはさながら昆虫のように。頭が完全に消滅するまで、体は動き続けるのだ。
死を間際にした獣こそ、何よりも恐ろしい。
それは実弥自身、身をもって知っていた。
しかしなんだ。
「頭が塵になってねェ…!」
ぼとんと地に落ちた童磨の頭は、生首のまま生存し続けている。
他の鬼のように、消滅の気配さえないのだ。
ズドンッ!!
「煉獄ッ!!」
更に一打。
容赦なく炎龍に打ち込まれる手刀に、ぱきぱきと炎が氷漬けにされていく。
「あははッ力は申し分なかったけど、やっぱり人間は人間だ。鬼とは生まれ落ちた瞬間から違う」
生首のまま、血反吐で染まった口角を上げて童磨が嗤う。
「可哀想に」
虹色の瞳を細めて、しみじみと語らう。
その目には一欠片も同情など持ち得ていない。
びきりと、実弥の額に青筋が浮いた。
「それは、童磨じゃない…ッ!」
「あァ!?」
聞こえた声は、実弥の後方。
振り返れば、倒れそうになりながらも中腰で立つ蛍の姿があった。