第26章 鬼を狩るもの✓
火柱は一匹の龍のような姿を象ると、童磨目掛けて牙を剥いた。
まるで太陽を相手にしているような、眩い獣に童磨の顔が照らされる。
その表情は爛々と輝いており、楽しそうに腕を振るった。
現れたのは、先程と同じ氷の菩薩だ。
風と炎の連撃すらも童磨に届かせなかった、分厚い仏の壁。
杏寿郎の怒りを体現するかのように、火の粉を撒き散らし突進する龍は、菩薩を前にしても止まることを知らない。
(例え突き破られても、一度失速する。避けるには容易いな)
止まらぬところで、頸は取れない。
菩薩の後ろで、童磨は焦ることなく笑い続けていた。
「〝参ノ型──晴嵐風樹(せいらんふうじゅ)〟」
炎の轟音に掻き消され、その声は童磨には届かなかった。
突如として龍の後方から旋風が巻き起こる。
坂巻くように渦を起こし、次々と沸き起こる旋風は、龍の体を四方左右から挟み込んだ。
分厚く焼ける炎龍の鱗。
触れた旋風は、巻き込まれることなく更に渦を加速させる。
「なん…」
なんだ、と童磨が疑問を口にする前に、炎龍は菩薩の手前で垂直に飛び上がった。
斜めへ、左へ、手前へ飛んだかと思えば、予備動作もなく反転する。
まるで本物の荒立つ龍の如く、火の粉を撒き散らしながら荒れ狂うのだ。
(あれは…っあの男の陣風か)
龍を見上げていた童磨の目が、ようやく実弥を捉えた。
刀を構えたまま、こちらを睨んでくる男を。
たった一つの呼吸技で、あの炎龍を操っているのだ。
単調な直進なら、準備して迎え撃つことができた。
しかし動きの読めないこの状態では、何処から攻撃がくるのかわからない。
「(まあ、わからなくても問題はない)全部凍らせればいいんだから」
目の前のもの全てを氷の世界に変える為、童磨の腕が扇を振るう。
「遅ェよ」
チリ、と白橡色の髪先が焦げ付く。
気付いた時には、熱気が肌を焼いていた。
(いつの間──)
ドォンッ!!!
いつ、目の前に迫っていたのか。
童磨が扇を振るうより早く、荒れ狂う炎龍がその頸に喰らい付いた。