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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第7章 柱《参》✔



 蜜璃ちゃんの慌ただしい声と物音が届く。
 その騒ぎに巻き込まれるようにして、ふらつく足を引き摺りながらその場を後にした。

 遠のく血の匂いに足を止めそうになったけど、振り返らなかった。
 ずっと後頭部に添えられていた義勇さんの手がそれを許さなかったから。
 その強めの束縛は今の私にはありがたかった。
 ほんの少しでも気を抜いたら、あの血を求めてしまいそうな気がして。

 それだけ不死川実弥の血は、今まで向き合ってきたどの人間の血より強烈な誘引力を持っていた。




















❉  ❉  ❉

 台風のようにやって来ては去っていった、柱二名と鬼一名。
 山のように積まれたおはぎだけを残されて尚、実弥は微動だにしなかった。

 余計なものを色々見られた気がするが口止めする暇もなかった。
 今度会ったら脅しがてら口封じをするかと考えながら、血の滲んでいる手首を見下ろす。

 あの鬼を誘惑できなかったのは正直驚いた。
 稀血に耐え切ってみせた鬼だが、自分の血なら必ず喰らい付くと思っていたのに。


(あいつが余計な邪魔をするからだ)


 普段は周りに一切関心を持たないあの男が余計なことを、と。
 蛍の見張り番としての役目は、鬼殺隊の当主から聞いて実弥も知っていた。
 そもそも蛍の死刑を頼みに申し出たところ、その事実を知らされたのだ。

 何を生温いことを、と思った。
 いくら当主とは言え一つも賛同できなかった。
 お陰で堂々と頸を跳ねに行くことはできなくなったが、隙あらばあの鬼の命を潰してやりたい。


(いずれ鬼の本性を暴いてやる)


 今回は義勇がいた為、仕留め損なった。
 しかしあの男がいない所でなら血の誘惑にも耐えられないだろう。

 転がしたままの桑と麻袋を取りに踵を返す。
 ふと足元に鮮やかな鶯色を見つけて目を止めた。
 元おはぎであったもの。
 その残骸を見下ろしていると蛍の叱咤を思い出す。





『食べたくても食べられない人もいるのに』





 そんなこと言われなくてもわかっている。


「…チッ」


 苛立たしげに舌を打つ。
 床に散った残飯に手を伸ばすと、荒々しい空気に反して傷だらけの手はそっと崩れた餅米を拾い上げた。

 そんなこと、言われなくてもわかっているのだ。

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