第26章 鬼を狩るもの✓
それは人か、鬼か。
「本当に全て任せていいか」
「次訊いたらシバくぞォ」
ふ、と杏寿郎の口元に緩やかな笑みが浮かぶ。
「すまん、失言だった。二度は言わない」
すらりと起こした赤い刃を、背に沿える。
低く腰を落とし、前方を見据え。片足を斜め後ろへと下げると、前のめりに構えた。
「長丁場にはしない。全力でいく」
最初は、音もなく。
肺の中の空気を、ぎりぎりまで吐き出す。
細く、長く、尽き果てるまで。
酸欠により耳鳴りがし始める。
それでも息は吸わない。
目を瞑り、口を閉じ、姿勢を崩さぬまま、杏寿郎はその場の空気に身を委ねた。
──ィイン
最初は蚊の鳴くようなものだった耳鳴りが、徐々に存在を上げていく。
体の危険信号を打ち鳴らすかのように、けたたましく頭を鳴らす。
息を吸え。
血を巡らせろ。
鼓動を鳴らせ。
それら全てを無視して、ただ一点に集中する。
瞼を閉じた闇の奥底。
其処に立つ、氷の鬼を。
体中で呻る危険信号を無用なものと捨て置けば、全ては置き去りにされた。
耳鳴りが遠のく。
体は震えもしない。
息苦しさがなくなった。
眩暈も感じない。
何もかもが消えた、闇だけの世界。
すると不思議と伝わってくる。
この世界で誰よりも禍々しい気配を持つ──悪鬼が。
(見えた)
カッ、と双眸を見開く。
(炎の呼吸──玖ノ型)
肺へと深く吸い込んだ空気が体中を巡り、一気に熱を灯す。
「〝煉獄〟」
己の名と同じ技。
炎の呼吸の奥義とも言えるその技を、杏寿郎は静かに紡いだ。
──ドォンッ!!!
刹那。
足場の影波を大きく抉り崩し、巨大な火柱が吹き上がった。