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いろはに鬼と ちりぬるを【鬼滅の刃】

第26章 鬼を狩るもの✓







『相性だァ? ンなモンでテメェはテメェの全てを計りきれるのかよ』





 開口一番に、毒突いて突き放された。
 陣風のように荒くも、清々しい程に己の軸を持っている。

 面白いと思った。
 正に風の呼吸を体現しているような男だと思った。

 だから知ってみたくなったのだ。
 不死川実弥という剣士のことを、もっと。


「お前、言ったよなァ。炎には風が欠かせないモンだと」


 ふと、実弥の視線が己の腕に落ちる。
 体内信号を送り届けても、氷漬けにされた腕は動かない。
 しかし意識的にじっと見据えていれば、皮膚の下で流れる血流は感じることができた。

 呼吸と同じだ。
 この体を流れるものは、まだ生きている。


「だったら俺がお前の目と足になってやる。太刀筋を変える必要なんかねェ。お前の気が済むまでアイツに怒りをぶちまけてやれ」

「…しかし、君の腕は…」

「お前の耳も詰まってんのかよ。これくらいで折れるようなら、俺はとっくにあの世に逝ってらァ」


 語る実弥の体には、鋭い無数の傷跡がある。
 生々しく皮膚の上を走るその跡は、決して浅くはない傷だ。

 それだけの危機と死線を潜ってきた。
 この男だからこそ重みを持つ言葉だ。


「それとも俺の風に掻き消されるくらい、お前の炎は矮小なモンなのかよ」


 は、と冷めた目で悪態をつく。
 初めて柱として肩を並べて向き合った時のように。


「笑止。俺の炎は何人たりとも掻き消せるものではない!!」


 返されたのは、あの時と同じだ。
 射貫くような双眸で、強くも笑う。


「うし、」


 親指を人差し指に添えて、ぱきりと鳴らす。
 動かせる腕に支障はない。
 掌に乗せた日輪刀を、手首の捻りだけでヒュンと回転させる。


「やるかァ」


 二ィ、と口角をつり上げ笑う男から、ぴしぴしと伝わる刹那の圧。
 とても片腕を失った男の姿には見えない。


「今後こそ頸を狩りに行くぞォ、煉獄」

「承知」


 再び童磨と向き合う。
 しかし確実に変わった場の空気に、虹色の眼は尚も輝いた。

 空気が軋むような息苦しさ。
 そこには死の気配がある。
 確実にこの一戦で、誰かが命を落とすだろう。

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