第26章 鬼を狩るもの✓
「ハッ、何ほざいてやがる。テメェの頸を狩るなんざ、腕一本ありゃあ十分だ」
「そうかい? 機能しない体の一部を引き摺って、片手で振るう刀なんて力も変わってくるはずだ。さっきと同じ技はもう打てないはずだよ」
「耳が機能してねェのかテメェはァ。脳髄まで腐れきった鬼の頸なんざ、片腕で十分だつってんだよ」
「不死川! 俺を庇」
「テメェはさっきの言葉を復唱してみろォ!!」
「むッ!?」
童磨に中指を突き立てて悪態をついていたかと思えば、駆け寄る杏寿郎に更なる罵声を飛ばす。
顔に青筋を立てて怒鳴る実弥の剣幕には、つい杏寿郎も背筋を伸ばして足を止めた。
距離のある童磨でさえも、その剣幕にきょとんと目を丸くしている程だ。
「俺に"頸を狩るぞ"って言ったよなァ。狩りに行ってんのはテメェ一人じゃねェか! 俺は御守役じゃねェぞ!!」
「っ…すま、ない」
実弥の機転により、頸に僅かな切り傷を受けただけで済んだ。
しかし代わりに実弥の腕が一本奪われてしまった。
厳しく跳ね上がっていた太い眉が、力なく下がる。
「大体なんだあの太刀筋は。いつものお前らしくもねェ」
「あの鬼を前にすると、どうしても怒りが抑えられなくなるんだ…」
「そうかィ。そりゃ結構なことだ」
「…む?」
てっきり咎められるとばかり思っていたのに、あっさりと肯定されて、沈みかけていた杏寿郎の顔が上がる。
「鬼に怒りや憎悪を感じるのなんざ、普通だろォ。何当たり前のことに謝ってんだよ」
鬼殺隊には、身内や大切な者を鬼に惨殺された者は多い。
柱も例外ではなく、その道に染まらなかったのは杏寿郎を含めて蜜璃と天元だけだ。
それでも彼らも彼らなりの修羅の道を歩んできた。
だからこそ肩を並べて戦えるのだ。
実弥が杏寿郎を認めているのもまた、自分には持ち得ない覚悟を抱え、鬼滅の道を歩んでいるからだ。
例え鬼への向き合い方が違っていたとしても。
「煉獄。柱に就任して最初に俺に声をかけた日のことを憶えてるか」
「? 今は昔話など」
「忘れたか」
「いや、忘れてはいない…が…」
最初に声をかけた日のこと。
鋭く殺気立つ視線と敵意を向けてきた実弥のことは、杏寿郎もよく憶えていた。