第26章 鬼を狩るもの✓
──ガキンッ!
「ほらね」
「!?」
片腕を頭へと翳した童磨が、振り下ろされた刃を受ける。
刃は童磨の腕を斬り伏せることなく、皮膚へと喰い込ませた途中で止まった。
まるで分厚い氷に阻まれたかのように。
血鬼術により斬撃を防がれたことはあっても、鬼の生身で刃を止められたことはない。
一瞬驚き呼吸を止めるも、すぐに杏寿郎は柄を握る両手に力を込めた。
(相手は鬼だ! 斬れないはずはないッ!!)
みしりと両手首に血管が浮く。
繋ぐ呼吸の密度を更に増す。
炎の形をした鍔から刃の切っ先まで、纏う炎の勢いが膨れ上がった。
〝参ノ型──烈火・気炎万象(れっか・きえんばんしょう)〟
じゅ、と焼き付く音が立つ。
ザンッ!
「…あ。」
更なる密度を増した気炎が、童磨の体を焼き斬った。
腕を巻き込み、肩から脇腹まで斜め一直線に童磨の体が斬り離される。
下半身の支えを失った上半身が、そのまま地へと落下した。
断面図から落ちた童磨は、途端に砕けた。
硝子が衝突により割れるようなつんざく音を立てて、粉々に砕け散る。
(ッ違う! これは氷の──)
それはテンジのような体の消滅ではない。
鬼が消え去る時の、塵と化すものとは違う。
鬼の細胞ではなく、童磨の化身となった氷の崩壊だった。
そう杏寿郎が悟った時、既に扇が横から頸を掠めていた。
鋭い扇の天が、焔色の髪を巻き込み皮膚を裂く。
──しゃりんッ、と薄い刃物が擦れるような音色を立てて、ぱっと氷が舞い飛んだ。
「っらァ!!」
「ッ!?」
頸への鋭い痛みと同時に、杏寿郎を襲ったのは背中への衝撃だった。
強い力に飛ばされた体が前方へと飛ぶ。
頸を押さえ振り返れば、背中を蹴り上げたのだろう、片脚を上げて宙を飛ぶ実弥の姿が見えた。
「不死川!!」
「チィ…!」
その腕が、びしびしと氷漬けにされていく様まで。
「残念。もう少しで頸を取れたのに」
手首のしなりで、扇を振る。
ぴっと先端についた僅かな血を飛ばして、ぱちんと閉じると童磨は緩く笑った。
「でもそっちの君はその腕、もう使い物にならないねえ」
杏寿郎の頸は取り損ねたが、実弥の腕を一本奪うことができた。
だらりと下がる左腕は、もう機能しない。